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大好きな本をレビュー&オススメする書評ブログです。

【寄り道】Inscryption(インスクリプション)【ゲーム感想・レビュー】

 

今回だけゲームの紹介をさせてください。

どうしてもこのゲームをオススメしたいんです…!!

 

 

Inscryption(インスクリプション)

store.steampowered.com

※↑こちらは

steamの公式ページですが、動画は見ない方が良いかも!

 ネタバレ要素があるので…

 

 

 

Inscryptionは、カードゲーム脱出ゲームが入り混じったサイコロジカルホラーゲームです。(情報量が多い)

ちなみに「サイコロジカルホラー」とは、プレイヤーや視聴者をじわじわ怖がらせたり、不安定にさせたりするホラーのことです。(「ドキドキ文芸部!」などのホラー表現がそれにあたりますね。)

Inscryptionは海外のインディーズゲームですが、日本語にもバッチリ対応しているのでご安心を。

 

 

 

プレイヤーはカードゲームを戦いながら、少しずつヒントを得て、今いる場所からの脱出を図ります。

 

カードゲームは、単純さと、少しずつ要素が足されていく奥深さのバランスが絶妙。

カードゲーム経験ゼロの私でも問題なくプレイできた(それどころか夢の中でもプレイするくらいドはまりした)ので、カードゲーム初心者の方でもきっと楽しめますよ。

 

ゲーム全体としては、音楽と効果音が異様に良いのも魅力ですね。

本当にずっと聞いていられます。

ちなみに「Inscryption」たった410円でのサウンドトラックが丸ごと買えます。い、良いんですか……と罪悪感を覚える安さです。

 

 

でもこのゲーム、「サイコロジカルホラー」の一文からも分かる通り、ただ楽しくカードゲームをするだけでは終わりません。

 

選択できない「ニューゲーム」。

喋るカードの存在。

ゲームにおいて価値を持つ「歯」…。

 

そしてカードゲームに負けるとき、プレイヤーは「カード」の正体を知ります。

 

さらに、「旅の終着点」で敵を倒したとき、「Inscryption」というゲームはそれまでとは全く異なる様相を見せるのです…。

 

 

 

二転、三転する世界観に、ゾクッとさせられるホラー描写の数々。

そして(おそらくは)プレイヤーによって感じ方が極端に変わる独特のストーリー…。

気になった方は、ぜひ前情報なしにプレイしてみてください。

 

 

 

正直、このボリュームと満足感で2,050円は破格だと思います。

私はクリアまでにプレイ時間が24時間以上かかりましたし、その間絶え間なく楽しかったです。

まだまだ拾い切れていない要素があるので、気持ちが落ち着いたら2周目プレイしようと思います。

心の底から良い買い物をしました…。

 

 

 

 

 

なぜ「気持ちが落ち着く」のを待っているかというと…私は「Inscryption」というゲームにズタボロに泣かされたんですよね。

 

…さて、ここからはネタバレ全開、既プレイヤー向けな内容です。

ネタバレ全開で語る場所が欲しくて、この記事を書き始めたと言っても過言ではありません。

「Inscryption」未プレイの方はどうか以下は読まずに、まずはご自身でプレイしてみてください…。

 

 

 

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49.『同姓同名』下村敦史

 

登場人物、全員同姓同名

 

▼『同姓同名』はこんな作品!

・下村敦史のミステリー小説

・猟奇殺人犯との同姓同名に苦しめられた人々の話

叙述トリック&どんでん返しアリ

 

 

 

『同姓同名』のあらすじ

6歳の女の子が犠牲になった猟奇殺人事件。

容疑者は逮捕されたが、少年法によって守られ、名前は公表されなかった。

世間が容疑者・少年Aと少年法に義憤や批判を向ける中、週刊誌が少年Aの実名を暴露する。

少年Aの名前は…大山正

その日から、同姓同名の大山正紀たちの人生は一変した。

 

さらに7年後、刑期を終えた大山正紀が出所すると、『大山正紀』への世間の憎悪はさらに燃え上がる。

そんな中、ひとりの大山正紀が『"大山正紀"同姓同名被害者の会』を発足。

猟奇殺人犯の名前によって人生を汚された彼らは、少年法に守られ顔を公表されなかった『大山正紀』を探し出そうとするが…。

 

 

 

『同姓同名』の感想・レビュー

『同姓同名』は、登場人物の大半が『大山正紀』。

しかも「作中で名前が出てくる人」で絞れば、なんと登場人物の大山正紀率100%です。

なんと挑戦的な…。

それに叙述トリックの匂いしかしない…!(*^^*)

 

 

もちろん基本的には、どの大山正紀がどの大山正紀かが分かるように書き分けられています。

ところが、ふとした拍子に「ん?この大山正紀ってどの大山正紀?」と分からなくなる書き方がされていたり…。

 

嘘はついていないところがミソ。だってみんな大山正紀なんですもん。

この、「真実が書いていあるのに隠してある」感じが、新しくて面白かったです。

 

 

ただでさえ大山正紀ばっかりの作品なのに、同じ漢字で読みが違う女性の大山正まで出てきたときには、面白すぎてクラクラしちゃいました。

 

『同姓同名』は一気読み必至、叙述トリック好きにはたまらないミステリー小説でした!

 

 

 

48.『八つ墓村』横溝正史

 

金田一耕助シリーズを読んだことがない方」にこそオススメ。

 

▼『八つ墓村』はこんな作品!

横溝正史金田一耕助シリーズ」の長編4作目

・2021年時点で10度映像化された超人気作品

・土俗的な伝承、連続殺人、サスペンス、宝探し…等々盛りだくさん!

 

 

 

八つ墓村』のあらすじ

天涯孤独の青年・辰弥のもとに、親族が辰弥を探しているという報せが入った。

辰弥が弁護士の立ち合いのもと、辰弥の祖父という人物に会ってみると、祖父はその場で血を吐いて死んでしまった。

 

さらに、辰弥を迎えに来た女性から、辰弥が、かつて八つ墓村で32人もの村人を殺した男の息子であることを明かされる。

意を決して八つ墓村の地を踏んだ辰弥を中心に、恐ろしい連続殺人の幕が切って落とされた…。

 

 

 

八つ墓村』の感想・レビュー

面白すぎる…。

八つ墓村』は、まさに読む手が止まらなくなる推理小説です。

 

 

展開は最初からノンストップで、まず語り手・辰弥の祖父を名乗る男が、辰弥の目の前で死亡。

そして辰弥が八つ墓村を訪れてからは、辰弥の兄、兄の法要の席に訪れた僧、法要の訪問客…などなど…辰弥が息つく間もなく人が死ぬこと死ぬこと…

それも、人死には決まって辰弥のすぐそばで起こるのです。

 

 

しかも連続殺人が、辰弥が村民たちから「あれがあの"32人殺し"の息子…」という目で見られている中で起こるものだから、状況は最初から辰弥に不利なのです。

この恐怖!この孤独…!

張り詰めた緊張と戦慄が、語り手を通して常に読者に伝わってきます。

 

語り手(辰弥)と探偵役(金田一耕助)がほとんど別行動という点もまた良いんですよね。

八つ墓村』では、語り手にとって探偵役は、頼れる存在じゃないんです。心の支えになってはくれないんです。

語り手はあくまで自分の手で、真実を探り当てようともがかなければならない…。

この絶え間ない緊張感がたまりませんでした。

 

しかし、そんな中だからこそ、人の温かみに心動かされる部分も多々あって…。

八つ墓村』はサスペンス色が非常に強い作品ですが、意外なことに人情に泣かされるシーンもしばしばありました。

 

 

 

この記事の「あらすじ」ではかなり端折りましたが、『八つ墓村』はストーリーも謎も、かなり複雑に入り組んでいます。

しかし、それはリアルな人間同士が息づいているがゆえの複雑さで…紐解かれた瞬間すんなり腑に落ちるものばかり。

そこもまた、この作品のすごい所です。

 

 

また、事件そのものの真実はひとつですが、オチはいくつも用意されていて、物語の終盤で段階で何度も「あっ!?」と驚かされたり、「そうだったのか…」と泣かされたり…。

本当に、最初から最後まで面白すぎる小説でした。

 

 

 

八つ墓村』は金田一耕助シリーズの1作目ではありませんが、八つ墓村』から入るのは全然アリだと思います。

だって面白すぎるから…!

*私自身、八つ墓村から入りました。

「前シリーズを読んでいなければ分からない」という点はほぼありませんでしたよ!

 

 

 

八つ墓村』では、土俗的な言い伝え、かつて起こった大量無差別殺人、そしてある法則にのっとった連続殺人…と、「金田一耕助シリーズ」のイメージにピッタリな血みどろでミステリアスなテーマに加え、「宝探し」という要素も大きなカギになってきます。

 

他の作品と並べるのは失礼かもしれませんが、江戸川乱歩の『孤島の鬼』やPlayStation 2ソフト『かまいたちの夜2』にも近しい要素があり、この2作品が好きな方は『八つ墓村』にも絶対ハマると思いますよ!

 

もう本当に、とにかく面白い作品なので、ぜひ一度お手に取ってみてください…!!

 

 

好きなミステリー小説10選!

10にまつわる4つのお題好きな◯◯10選

 

 

今回は、私が好きなミステリー小説を10個ご紹介していきます。

あなたにとっても気になる作品があればいいのですが…!

 

 

 

1.『容疑者xの献身東野圭吾

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容疑者xの献身』は、謎が解き明かされる瞬間のカタルシス胸を打つストーリーが両立した稀有なミステリー小説です。

 

容疑者xの献身』は、探偵役である天才物理学者・湯川が、かつての友人である天才数学者・石神が犯した罪、その真実を暴き出す物語なのですが…

真相はまさしくタイトル通り

しかしその「献身」は、読者の予想を大きく上回ります。

衝撃のトリック、そして「純愛」を貫いた犯人の慟哭には、涙を禁じ得ませんでした。

容疑者xの献身』は間違いなくガリレオシリーズ』の最高傑作と言えるでしょう…。

 

ちなみに映画版も最高です。

堤真一の熱演には咽び泣きさせられました…。

 

 

 

2.『沈黙のパレード』東野圭吾

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『沈黙のパレード』もまた、『容疑者xの献身』と同じく『ガリレオシリーズ』の作品です。

個人的には『沈黙のパレード』は、『容疑者xの献身』に次ぐ名作だと感じました。

 

『沈黙のパレード』のカギとなるのは「沈黙」。

ミステリーで「沈黙」といえば……そう、「黙秘権」です。

『沈黙のパレード』は、黙秘権の行使によって無罪を勝ち取った男への復讐劇。

しかし本作もまた、『容疑者xの献身』と同じく「愛」が大きなテーマになっているように感じました。

 

『沈黙のパレード』はドラマ版「ガリレオ」からの逆輸入シーンがあるのも、シリーズファンとしては嬉しいポイント。

また、いつになく真相究明に積極的な湯川先生(探偵役)の行動原理には『容疑者xの献身』が深く関わっており、ものすごく胸が熱くなりました。

 

 

 

3.『罪の余白』芦沢央

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『罪の余白』は、いじめで娘を失った父親の復讐劇を描いた作品です。

 

復讐劇といえば、何らかの出来事によって復讐計画が頓挫し、「復讐は何も生まない」という結論に辿り着くのが刑事ドラマなんかではお決まりのパターンですが、『罪の余白』では復讐者が復讐をきっちりやり遂げるのがポイント。

 

でも、その復讐内容が衝撃的で、同時に納得感が強い点も特徴的。

かなり重いテーマの作品ですが、心が温かくなるような場面も多々あり、読みやすく、ミステリー初心者にもオススメしたくなります。

個人的には、芦沢央作品の中で一番好きなミステリー小説です。

 

 

 

4.『告白』湊かなえ

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『告白』もまた、『罪の余白』と同じく「復讐」が大きなテーマになったミステリー小説です。

 

『告白』は「イヤミス」の代名詞として挙げられることが多い作品ですが、私はむしろ『告白』のラストシーンには、爽快感とある種の納得感を覚えました。

法で裁くことができない少年相手の復讐劇としては、これ以上なく残酷で、しかし教育的でもある作品だと思います。

 

ま、個人の復讐劇に無関係な人間がもらい事故しまくっている点に注目すれば、『告白』は紛うことなきイヤミスなんですけれどね!

 

 

 

5.『みんな邪魔』真梨幸子

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『告白』が万人向きなイヤミスだとすれば、『みんな邪魔』は明らかに人を選ぶイヤミスです。

イヤミスの定義は「読んだ後にイヤな気持ちになるミステリー」ですが、『みんな邪魔』は割と読んでいる間じゅうイヤな気持ちになります

 

「人間の嫌な部分」を直視させられるというか…。

でも、だからこそ『みんな邪魔』という作品には強烈に惹かれます。

叙述トリックを用いたどんでん返しが魅力ですが、それを差し引いても面白い小説ですよ。

 

 

 

6.『星降り山荘の殺人』倉知淳

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「どんでん返しミステリー」をお探しの方に、私は『星降り山荘の殺人』を真っ先にオススメしたいです!

 

『星降り山荘の殺人』は「読者への真っ向勝負」が大きな魅力で、各章のはじまりには必ず、フェアさを重視した注意書きが書かれています。

たとえば、

「主人公は読者と情報を共有する立場であり、犯人では有り得ない」

「この章で述べられているこの推理は正しい」

などなど…。

 

したがって、読者はかなり注意深く『星降り山荘の殺人』を読むことになるのですが…それでも最後まで騙されちゃう。

私は叶うなら、記憶を消してもう一度『星降り山荘の殺人』を読みたいです…。

ミステリーというジャンルへの導入としてもオススメな小説ですよ。

 

 

 

7.『アリス殺し』小林泰三

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『アリス殺し』は、ミステリーとファンタジーを組み合わせた斬新な小説です。

 

主人公・亜理は、毎日決まって「不思議の国」の夢を見ます。

そして夢の中でハンプティ・ダンプティが墜落死した日、現実世界でも大学で「玉子」というあだ名の研究員が屋上から落ちて死亡。

それ以降、夢での死と現実世界との死がリンクするのです。

 

「夢の中の話なら、何でもアリになっちゃうじゃん」と思いきや、読者に求められるのはあくまで常識的な推理のみ。

でも、夢の世界は支離滅裂かつ荒唐無稽で…そのギャップが面白いです。

ラストは圧巻の、世界ごとひっくり返されるようなどんでん返し

 

 

 

8.『八つ墓村横溝正史

 

八つ墓村』は、かの日本三大名探偵、金田一耕助が登場するミステリー小説です。

私は金田一耕助シリーズに『八つ墓村』から入ったクチですが、めちゃめちゃ面白いんですよ…この小説…。

好みすぎて、「これこれ、こういうミステリー小説が読みたかったの!」と大興奮しっぱなしでした。

 

閉鎖的な田舎村「八つ墓村」に伝わる伝説。

それにまつわる凄惨な大量殺人事件を発端として、新たな惨劇が幕を開ける…。

ストーリー全体を覆う、土俗ホラー的な、古臭くじめじめとした雰囲気がたまりません。

 

八つ墓村』では、探偵役=金田一耕助と、語り手である青年とがほとんど完全に別行動という点も特徴的。

だからこその、他のミステリー小説ではなかなか味わえない、真に迫る恐怖感があります。

 

 

 

9.『密室殺人ゲーム王手飛車取り』歌野晶午

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密室殺人ゲーム王手飛車取り』は推理合戦ミステリーです。

でも、たまたま起こった事件に探偵たちが挑む、という話ではありません。

主人公たちは1人の出題者(=犯人)と3人の回答者(=探偵役)に分かれ、順番にミステリーの問題を出し合うゲームを行っているのです。

 

それも、ただの推理ゲームではありません。

出題者は実際に殺人を犯し、それを題材にして探偵役たちに出題します。

殺人事件を起こすのだから、もちろんニュースにもなります。

でも、そのニュースさえも、彼らの中では「問題のヒント」としてしか扱われません。

 

この不謹慎さと、主人公たちの凶悪犯罪者らしからぬ(いや、逆に凶悪犯罪者らしいか…!?)軽快なやり取りがクセになる小説です。

 

 

 

10.『毒入りチョコレート事件』

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毒入りチョコレート事件』は、6人の探偵役が推理合戦する、多重解決モノのミステリー小説です。

 

面白いのが、「毒入りチョコレート事件」というひとつの事件に対し、8つもの推理が展開されるところ

しかも読んでいくと、その推理のどれもが真実かのように思えてくるから不思議です。

 

『毒入りチョコレート事件』には、「ミステリー小説は作者の誘導によって、いくらでも「これが唯一の真実」と思い込ませることができるんだよ」と読者に知らしめる、アンチミステリ&メタフィクション的な構造になっています。

読んでいて本当に興奮するミステリー小説ですよ!

 

 

 

 

お好みの小説はあったでしょうか?

ほとんどの作品について、このブログでも紹介しているので、よかったら記事の方も読んでみてくださいね(*^^*)

 

 

47.『ぼぎわんが、来る』澤村伊智

 

ジェットコースターみたいなホラー小説。

 

▼『ぼぎわんが、来る』はこんな作品!

・澤村伊智のデビュー作

・2018年に「来る」というタイトルで映画化した人気小説

・「ぼぎわん」という怪異に霊能者たちが挑む

 

 

 

 

『ぼぎわんが、来る』のあらすじ

幸せな新婚生活を送る田原秀樹の会社に、覚えのない来訪者があった。

それを契機に、秀樹の周りでは不可解な事象が起こり始める。

会社では同僚が謎の噛み傷を負って病院送りに。

家では秀樹が買い集めたお守りがズタズタに引き裂かれた。

 

秀樹には、それらの怪現象にひとつの心当たりがあった。

幼い頃、亡き祖父が恐れた化け物……ぼぎわん

秀樹はぼぎわんの脅威に対抗すべく、霊能力者を頼ることに。

果たして秀樹は、愛する家族を守ることができるのか…。

 

 

 

『ぼぎわんが、来る』の感想・レビュー

『ぼぎわんが、来る』というタイトルの引力!凄まじいですよね。

「ぼぎわん」という言葉の、なんだかよく分からないけれどゾッとするような語感。

そして、「ぼぎわん」の不穏さを予感させる、美しさと不気味さが共存した花の造形、配色。

最高の表紙だと思います。

ほぼ表紙買いしましたもん、私。

 

 

でも、私が『ぼぎわんが、来る』を買った理由はもうひとつあります。

それは、郷愁と恐怖を同時に味わえる、ストーリーの導入部分の良さです。

 

導入では、第一章の主人公・秀樹が子供の頃に遭遇した、不可解な出来事が綴られています。

秀樹は幼い頃、祖父母の家で異形の怪異「ぼぎわん」と遭遇していたのです。

玄関の刷りガラス越しに。

 

この無理なくイメージできちゃうシチュエーションと、まさに純・和ホラー!と思わされる雰囲気にハートを貫かれ、そのままの勢いで購入したのでした。

でも「オーソドックスな和ホラー小説」という予想が、読んでいくうちに裏切られることになるとは…!

 

 

 

『ぼぎわんが、来る』はジェットコースターみたいなホラー小説!

後ろからそっと肩に手を乗せられるような、そんな静かな怖さを予感していた私の前で、『ぼぎわんが、来る』は怒涛の展開を見せます。

破壊されるお守りたち、千切れ飛ぶ人の腕…

導入部分の静かな不気味さとは裏腹に、怪異は凄まじい勢いで主人公たちに迫ります。

そのスリルと展開の乱高下っぷりは、まさにジェットコースター!

 

もちろん、主人公たちも黙ってはいません。

『ぼぎわんが、来る』の主人公・秀樹は、ぼぎわんに負けじと調査し、人を頼り、並々ならぬ迅速さで怪異への対抗を試みます。

 

怪異サイドも人間サイドも全力です。

そのパワーに圧倒されているうちに、気が付けばページが進んでいる…。

『ぼぎわんが、来る』は、そんな読む手が止まらなくなる小説です。

 

 

 

『ぼぎわんが、来る』はホラー初心者にもオススメ。その理由は…

『ぼぎわんが、来る』は怖いです。

怖いんですが、それよりも物語的な面白さが勝る、という印象でした。

展開が怒涛すぎて、予想外すぎて、怪異への恐怖よりも、「次はどうなるんだ!?」という期待が勝っちゃう

 

また『ぼぎわんが、来る』は「主人公サイドに怪異への対抗手段がある」のが特徴的です。

逃げてばかりじゃなく、立ち向かう術があるんですよ。

そのため、ストーリー中盤以降はバトル物のような展開が見られます。

『ぼぎわんが、来る』は怖いばかりじゃなく、ドキドキワクワクさせられるから、ホラー初心者にもオススメなんです。

 

 

 

「ホラー」以外にも大きな見どころが!

『ぼぎわんが、来る』は、第一章ではイクメンを自負する秀樹、第二章では秀樹の妻・香奈の視点で描かれます。

面白いのが、第一章と第二章で、「秀樹」という人物への印象がガラリと変わるところです。

つまり、秀樹から見た秀樹自身と、妻・香奈から見た秀樹の人物像には大きな乖離が存在するのです。

 

そんな風に、一人称視点の特質を上手く利用したストーリーが圧巻で、私も最初、第一章と第二章とのギャップに非常に驚かされました。

「どちらか一方だけに話を聞く」ことの不公平さがよく分かる、なんだか風刺的な部分がすごく気に入っています。

 

 

 

『比嘉姉妹シリーズ』について

『ぼぎわんが、来る』は『比嘉姉妹シリーズ』の1作目です。

『比嘉姉妹シリーズ』は『ぼぎわんが、来る』に登場する女性霊能者姉妹を主人公にしたホラー小説シリーズで、『ぼぎわんが、来る』の続編が『ずうのめ人形』、次いで『ししりばの家』、『などらきの首』、『ぜんしゅの跫』、と続いていきます。

 

ただ、私はまだ『ぼぎわんが、来る』しか読んでいません。

私は『ぼぎわんが、来る』を「田原夫妻(秀樹&香奈)の物語」と捉えて読んでいたので、彼らの協力者である比嘉姉妹を主人公に据えたシリーズ展開に抵抗を覚えてしまったんですよね…。

(『ぼぎわんが、来る』が大好きだからこその感情…)

 

 

 

でも今回、この記事を書くにあたって、『ぼぎわんが、来る』を「比嘉姉妹の物語」として読み返してみたところ……面白い…。(あたりまえ体操

 

確かに「田原夫妻の物語」は『ぼぎわんが、来る』で完結しているものの、比嘉姉妹については非常に多くの謎が残っています。

『ぼぎわんが、来る』を「比嘉姉妹シリーズ」の1作目として読み返してみて、比嘉姉妹の謎が急速に気になり始めました。

というわけで、『ずうのめ人形』、買ってきます!!

 

 

46.『らせん』鈴木光司

 

『リング』の恐怖が確信に変わる。

 

 

▼『らせん』はこんな作品!

鈴木光司のサスペンス・ホラー小説

・貞子でお馴染み『リング』の続編

・ホラーというよりとっても怖いSFミステリー

 

 

 

 

 

『らせん』のあらすじ

監察医・安藤は、謎の死を遂げた高山竜司の解剖を担当した。

安藤にとって、竜司は大学時代の友人だった。

 

安藤が解剖した竜司の遺体からは、謎の肉腫が発見される。

そして解剖を終えた遺体の腹からは、詰め込んだ新聞紙が不自然にはみ出ていた。

その新聞紙に書かれた暗号めいた数字は、ある言葉を暗示していた。

 

「RING」———リング

 

それが竜司からのメッセージと思えてならない安藤は、竜司の死の原因を追い始める。

一方、竜司と交際していたは、竜司の部屋で一本のビデオテープを発見する…。

 

 

 

『らせん』の感想・レビュー

まさか『リング』の続編が、『リング』で探偵役だった人物の遺体解剖から始まるとは…。

そして前作『リング』で登場したあの人たちがまさかの死を遂げており、前作主人公の奮闘を見てきた身としてはかなりショッキングでした…。

 

 

 

『らせん』はミステリー色が強い

私は『リング』は「ミステリアスな最恐ホラー作品」だと思うのですが、『らせん』はとっても怖いSFミステリー作品、という印象を受けました。

 

『リング』もミステリー色が強い作品でしたが、『らせん』はさらにミステリー要素が濃厚になっています。

『リング』で残った謎を、科学的・医学的な根拠を明示しながら紐解いていくのが『らせん』なんです。

私は根っからの文系なので、『らせん』で示された「根拠」がどれくらいリアルなものなのか分からないのですが、やはりフィクション作品で科学的な根拠らしきものを詰められると、鳥肌が立っちゃいます。

 

 

 

また『らせん』では「暗号解読」の要素がストーリー全体に散りばめられています。

これが作品のミステリアスさをより色濃いものにしているんです。

主人公が目の前の暗号を、ああでもないこうでもないとアイデアを出しては捨ててを繰り返しながら紐解いていく過程は本当に面白く、ミステリーが苦手な人でも楽しめると思います。

 

 

 

『らせん』や『リング』の怖さについて

『リング』といえば例のビデオテープですよね。

貞子が井戸から出てくるやつ。(原作では出てこないけど)

呪いのビデオテープはダビングによって増殖し、「不幸の手紙」のように拡散されていきます。

それが『リング』に底知れない恐怖を感じるポイントのひとつです。

 

でもそれ以上に怖いのが、ビデオテープの内容の描写です。

『リング』で描かれるビデオテープの内容は、「貞子が井戸から出てくる」という映像化作品のイメージよりももっと複雑怪奇。

なのに頭の中で異常なまでに鮮明なイメージが浮かぶんです。

私は『リング』でビデオテープの描写を読んでいる間、「今、私は読んではいけないものを読んでいるのではないか」という恐怖に囚われました。

 

 

 

そしてその恐怖は、『らせん』を読むことで確信に変わります。

作者が自分の表現力の巧みさを完全に把握し、利用して、第四の壁(つまり「小説」と「読者」の間の壁)を崩しにかかってくるんですよ。

 

『らせん』の中でとあるキャラクターが、「(『リング』にまつわる事件について)傍観者でいようとした。事の成り行きを楽しんでさえいた」と話します。

そんな彼が「自分もすでに事件の当事者だった」と知る時、読者も同様の恐怖に襲われるんです。

このあたりは読んでいて本当に戦慄しました…。

 

 

 

 

『らせん』は読みやすさも魅力!

『らせん』は『リング』に比べて非常に読みやすかったのも嬉しいところ。

『リング』ではひとつの場面で視点主がたびたび入れ替わりましたが、『らせん』では視点がほぼ固定になったので、読んでいて疲れないんですよね。

 

 

 

ホラー感でいえば『リング』の方が上だと思いますが、読みやすさは『らせん』の方が断然上だと思います。

たぶん「『リング』が至高」と思っている人と同じくらい、「『らせん』の方が好き」と感じる方も多いはずです。

 

『リング』を読んだ(もしくは映画を観た)ことがある方は、ぜひ続編『らせん』も読んでみてください!

私は『ループ』(『らせん』の続編)買ってきます!!

 

 

45.『青野くんに触りたいから死にたい』椎名うみ

 

幽霊×純愛×土俗ホラー

 

 

▼『青野くんに触りたいから死にたい』はこんな作品!

・『月刊アフタヌーン』で連載中(2021年11月現在)の人気作

・電波系かと思いきや120%純愛作品

・本格的な土俗ホラー要素が魅力!

 

 

 

 

青野くんに触りたいから死にたい』のあらすじ

女子高生・刈谷優里(ゆうり)は、隣のクラスの青野龍平と会話を交わしたことから、「わたし彼氏ができちゃうのかもしれない!」と舞い上がる。

そして優里が思い切って告白すると、なんと青野はそれを受け入れ、ふたりは晴れて付き合うことになった。

 

ところが、付き合って2週間で、青野は交通事故で他界してしまう。

悲しみのあまり後追い自殺をしようとする優里。そんな彼女の前に、死んだ青野が幽霊となって現れた

死が別ったはずのふたりが深め合う愛。

しかし、優里が軽い気持ちで提案した「憑依」をきっかけに、平穏な日常に影が差し始める…。

 

 

 

青野くんに触りたいから死にたい』の感想・レビュー

私は正直、『青野くんに触りたいから死にたい』は導入部分のインパクト一発勝負の漫画なのかな、と予想していましたし、それでも良いと思って買いました。

(それくらいインパクトが強いんですよね。ヒロインが初めて男子と喋ったからって「彼氏ができちゃうかも!」と舞い上がるぶっ飛び感といい、彼氏がすぐ死んじゃったあげく幽霊になって戻って来るテンポの良さといい)

でもね。

導入部分の面白さがピークかと思いきや、巻を重ねるごとにどんどんどんどん面白くなっていくんですよ。

 

導入部分はちょっと電波っぽいと思ったら、

ちょっとエッチな純愛物語になっていって、

かと思えばなかなかグロ目なホラー演出があったり、

登場人物が増えるごとにヒロインの魅力や成長が垣間見えたり…。

 

そして3巻でヒロインたちが住む地域にまつわる迷信「四ツ首様」の要素が登場してから、『青野くんに触りたいから死にたい』は一気に土俗ホラーの様相を呈し始めるんです。

何を隠そう、私は土俗ホラー作品が大好きでして!!

青野くんに触りたいから死にたい』が土俗ホラー物だとは夢にも思っていなかった分、3巻以降のストーリーにはそれまで以上に大興奮しっぱなしでした。

(作中で登場する「懺悔懺悔、六根清浄(さんげさんげ、ろっこんしょうじょう)」という言葉は実際にあるフレーズのようですね。作品の説得力が増しちゃいますね…)

 

 

 

それと、『青野くんに触りたいから死にたい』は、安楽椅子探偵的なポジション美桜(みお)ちゃんによる推理パートがまた本当に良くて…!

作中のホラー要素を分解しながら、ひとつひとつ推理によって紐解いていくんですよね。

意味不明と思われた要素が、「そういうもの」で片づけられずに、根拠を示されながら明らかになっていく。

読んでいて楽しすぎます。

(小説『リング』シリーズや『ぼぎわんが、来る』などが好きな人は絶対楽しめると思いますよ!)

 

 

 

 

青野くんに触りたいから死にたい』は、キャラクターや人間模様もまた魅力的なんですよね。

誰かがすごく強くて、傷付いたキャラクターがその強さと優しさにすがるんじゃなくて、みんなが弱くて優しくて、その弱さをお互いに補い合いながら前に進もうともがくんです。

青野くんに触りたいから死にたい』を読んでいると、人間ってこうあるべきだよな、というか、こうありたいなぁ…という気持ちになります。

 

 

 

あと一枚絵がすごく良い…。

特に扉絵!

青野くんに触りたいから死にたい』の扉絵はそのストーリーの内容を端的に表していることが多く、扉絵を見ればどんな内容の話だったかが分かるようになっています

続きモノの話では、扉絵が連作になっていたりも…。

これが「センスがある」ということか…。と、『青野くんに触りたいから死にたい』の扉絵を見るたびに思います。

 

 

 

青野くんに触りたいから死にたい』は、ホラー漫画好きも、恋愛漫画好きも、どちらも満足させるような作品だと思います。

そして土俗ホラー好きには間違いなくブッ刺さる作品だと思うので、未読の方はぜひ!!

 

 

▼土俗ホラー好きさんにはこちらの作品もオススメ!

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