5つ星の本棚

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47.『ぼぎわんが、来る』澤村伊智

 

ジェットコースターみたいなホラー小説。

 

▼『ぼぎわんが、来る』はこんな作品!

・澤村伊智のデビュー作

・2018年に「来る」というタイトルで映画化した人気小説

・「ぼぎわん」という怪異に霊能者たちが挑む

 

 

 

 

『ぼぎわんが、来る』のあらすじ

幸せな新婚生活を送る田原秀樹の会社に、覚えのない来訪者があった。

それを契機に、秀樹の周りでは不可解な事象が起こり始める。

会社では同僚が謎の噛み傷を負って病院送りに。

家では秀樹が買い集めたお守りがズタズタに引き裂かれた。

 

秀樹には、それらの怪現象にひとつの心当たりがあった。

幼い頃、亡き祖父が恐れた化け物……ぼぎわん

秀樹はぼぎわんの脅威に対抗すべく、霊能力者を頼ることに。

果たして秀樹は、愛する家族を守ることができるのか…。

 

 

 

『ぼぎわんが、来る』の感想・レビュー

『ぼぎわんが、来る』というタイトルの引力!凄まじいですよね。

「ぼぎわん」という言葉の、なんだかよく分からないけれどゾッとするような語感。

そして、「ぼぎわん」の不穏さを予感させる、美しさと不気味さが共存した花の造形、配色。

最高の表紙だと思います。

ほぼ表紙買いしましたもん、私。

 

 

でも、私が『ぼぎわんが、来る』を買った理由はもうひとつあります。

それは、郷愁と恐怖を同時に味わえる、ストーリーの導入部分の良さです。

 

導入では、第一章の主人公・秀樹が子供の頃に遭遇した、不可解な出来事が綴られています。

秀樹は幼い頃、祖父母の家で異形の怪異「ぼぎわん」と遭遇していたのです。

玄関の刷りガラス越しに。

 

この無理なくイメージできちゃうシチュエーションと、まさに純・和ホラー!と思わされる雰囲気にハートを貫かれ、そのままの勢いで購入したのでした。

でも「オーソドックスな和ホラー小説」という予想が、読んでいくうちに裏切られることになるとは…!

 

 

 

『ぼぎわんが、来る』はジェットコースターみたいなホラー小説!

後ろからそっと肩に手を乗せられるような、そんな静かな怖さを予感していた私の前で、『ぼぎわんが、来る』は怒涛の展開を見せます。

破壊されるお守りたち、千切れ飛ぶ人の腕…

導入部分の静かな不気味さとは裏腹に、怪異は凄まじい勢いで主人公たちに迫ります。

そのスリルと展開の乱高下っぷりは、まさにジェットコースター!

 

もちろん、主人公たちも黙ってはいません。

『ぼぎわんが、来る』の主人公・秀樹は、ぼぎわんに負けじと調査し、人を頼り、並々ならぬ迅速さで怪異への対抗を試みます。

 

怪異サイドも人間サイドも全力です。

そのパワーに圧倒されているうちに、気が付けばページが進んでいる…。

『ぼぎわんが、来る』は、そんな読む手が止まらなくなる小説です。

 

 

 

『ぼぎわんが、来る』はホラー初心者にもオススメ。その理由は…

『ぼぎわんが、来る』は怖いです。

怖いんですが、それよりも物語的な面白さが勝る、という印象でした。

展開が怒涛すぎて、予想外すぎて、怪異への恐怖よりも、「次はどうなるんだ!?」という期待が勝っちゃう

 

また『ぼぎわんが、来る』は「主人公サイドに怪異への対抗手段がある」のが特徴的です。

逃げてばかりじゃなく、立ち向かう術があるんですよ。

そのため、ストーリー中盤以降はバトル物のような展開が見られます。

『ぼぎわんが、来る』は怖いばかりじゃなく、ドキドキワクワクさせられるから、ホラー初心者にもオススメなんです。

 

 

 

「ホラー」以外にも大きな見どころが!

『ぼぎわんが、来る』は、第一章ではイクメンを自負する秀樹、第二章では秀樹の妻・香奈の視点で描かれます。

面白いのが、第一章と第二章で、「秀樹」という人物への印象がガラリと変わるところです。

つまり、秀樹から見た秀樹自身と、妻・香奈から見た秀樹の人物像には大きな乖離が存在するのです。

 

そんな風に、一人称視点の特質を上手く利用したストーリーが圧巻で、私も最初、第一章と第二章とのギャップに非常に驚かされました。

「どちらか一方だけに話を聞く」ことの不公平さがよく分かる、なんだか風刺的な部分がすごく気に入っています。

 

 

 

『比嘉姉妹シリーズ』について

『ぼぎわんが、来る』は『比嘉姉妹シリーズ』の1作目です。

『比嘉姉妹シリーズ』は『ぼぎわんが、来る』に登場する女性霊能者姉妹を主人公にしたホラー小説シリーズで、『ぼぎわんが、来る』の続編が『ずうのめ人形』、次いで『ししりばの家』、『などらきの首』、『ぜんしゅの跫』、と続いていきます。

 

ただ、私はまだ『ぼぎわんが、来る』しか読んでいません。

私は『ぼぎわんが、来る』を「田原夫妻(秀樹&香奈)の物語」と捉えて読んでいたので、彼らの協力者である比嘉姉妹を主人公に据えたシリーズ展開に抵抗を覚えてしまったんですよね…。

(『ぼぎわんが、来る』が大好きだからこその感情…)

 

 

 

でも今回、この記事を書くにあたって、『ぼぎわんが、来る』を「比嘉姉妹の物語」として読み返してみたところ……面白い…。(あたりまえ体操

 

確かに「田原夫妻の物語」は『ぼぎわんが、来る』で完結しているものの、比嘉姉妹については非常に多くの謎が残っています。

『ぼぎわんが、来る』を「比嘉姉妹シリーズ」の1作目として読み返してみて、比嘉姉妹の謎が急速に気になり始めました。

というわけで、『ずうのめ人形』、買ってきます!!