27.『毒入りチョコレート事件』アントニイ・バークリー
ひとつの事件に8つの推理。
ミステリー好きなら一度は読むべし!な古典的名作。
▼『毒入りチョコレート事件』はこんな作品!
・1929年に発表されたイギリスの名作ミステリー小説
・複数探偵による、推理合戦ミステリにして多重解決モノ
・「推理小説」そのものに切り込むメタフィクション的な側面もあり…
『毒入りチョコレート事件』のあらすじ
ロジャー・シェリンガムが創設した「犯罪研究会」に、スコットランド・ヤードの刑事からとある事件が持ち込まれた。
毒入りチョコレート事件。毒入りチョコレートを試食した夫妻が被害に遭った未解決事件だ。
被害者の夫は一命を取り留めたが、夫人は死亡。
たが彼らが食したチョコレートは、本来、他の人間に送られたものだった…。
ロジャー含む「犯罪研究会」の6人のメンバーは、6人それぞれが独自に調査を行い、一人ずつ推理を発表することを思いつく。
その果てに本作では、警察の推理と合わせ、ひとつの事件に対して8つもの推理が提示されることになるのだが…。
鋭い角度で「推理小説」そのものに切り込む、ミステリー界の傑作。
『毒入りチョコレート事件』の感想・レビュー
面白い。
面白い!!
6人もの探偵役が、ひとつの事件に対して、全く異なる推理を次々に展開していく様子。
しかも探偵役1人目の発表内容から、すでに「これが正解なのでは?」と思えるような推理が提示されます。
2人目でも。
3人目でも…!
どの探偵役の推理も、すべて理に叶っていて正しいように見えるんです。
読んでいて本当に興奮しました。
事件そのものは一見単純。
その割に判明していることが少ないから、読者の推理(あるいは予想)の余地も存分にあります。
私も、「この人が犯人では?」と考えたり、「こういう結末だったら面白いよな」と想像しながら読み進めていったんですが…
読者が立てた予想は、探偵たちの推理によって早々に、ことごとく潰されていくんです。
立てた仮説をひとつひとつ丁寧に否定されるのがものすごく気持ちよくて…。
作者の手のひらの上で転がされている感がたまりませんでした。
推理の内容に、探偵役それぞれの立場や性格などが存分に反映されている点も面白いです。
なのに、やっぱりどの推理も正しいように見える…。
これが、『毒入りチョコレート事件』が持つメタフィクション的要素です。
ミステリー小説は、作者の誘導によって読者にいくらでも「これが唯一の真実」と思い込ませることができる。
たとえ、実は他に推理の余地があったとしても…。
『毒入りチョコレート事件』のラストにはどんでん返しも待ち受けており、最初から最後まで本当に面白いミステリー小説でした。
『毒入りチョコレート事件』は20世紀前半にイギリスで発表された作品ですから、(分かりやすく翻訳されているとはいえ)現代日本人が読むと分かりにくい表現・親しみがない描写もちょいちょいありますが、それを乗り越えれば本当に面白いミステリーの世界が待っています。
ぜひじっくり読み進めていってください…!