5つ星の本棚

大好きな本をレビュー&オススメする書評ブログです。

30.『こころ』夏目漱石

 

思ったよりも辛い物語だった…。

 

 

 

▼『こころ』はこんな作品!

夏目漱石の代表作のひとつ

・日本で一番売れている本

・「私」と先生、そして先生とKの物語

 

 

 

 

『こころ』のあらすじ

 

時は明治時代末期。

海水浴をしていた学生の「私」は、浜辺で出会った「先生」と交流をはじめ、やがて先生の家ににたびたび訪れるようになる。

「私」は先生を尊敬し、よく懐いていたが、先生は人間を遠ざける性質で、「私」にも心の内を容易には見せなかった。

 

やがて「私」の父が倒れたという知らせが入り、「私」は先生の元を離れて帰省する。

そして父の容体がいよいよ悪くなった頃、先生から分厚い封筒が届いた。

それが先生の遺書だと気付いた私は、父を置いて汽車に飛び乗った。

 

先生の遺書には、先生と、先生の親友「K」に関する悲劇が綴られていた…。

 

 

 

『こころ』の感想・レビュー

 

正直、『こころ』がこんなにしんどい作品だとは思っていませんでした…。

 

私は恥ずかしながら、つい最近まで『こころ』について何も知りませんでした。

「先生」っていうんだから、学校の先生か何か?

「先生」がKのお墓参りをすること、「先生」とKが恋愛関係でごたごたしたらしいことは知っていたけど、それって「先生」がそんなに悔やむようなこと…?

 

そんな感じで読み始めた『こころ』でしたが、「先生」は実は(職業的な意味では)先生でも何でもなく、「K」にまつわるストーリーについても、「先生」の心の傷がかなり根深いことがよく分かりました。

 

というか日本中に知られた作品なのでネタバレしちゃいますが、親友に隣の部屋で首かっ切って自殺されたら、そしてその原因のひとつが自分の行いだったら、「先生」じゃなくても一生トラウマですよ…。

「先生と遺書」の章の後半はもう、胸が痛くてしょうがなかったです…。

 

さらにですよ、「先生」はKが自殺したあと、Kとのごたごたの原因ともいえる女性と結婚しているんです。

そのことを、先生の奥さんとなった女性は知らない…。

いくら先生と奥さんの関係が良好でも、いくら幸せでも、奥さんと暮らし続ける限り「先生」の心は蝕まれ続ける…。

本当に、胸を締め付けられるような物語でした。

 

 

 

私は『こころ』のレビューを書くにあたって、『こころ』が日本一売れている文学作品ということを初めて知ったのですが、それも納得の作品です。

心に爪痕を残すようなストーリーはもちろん、読みやすさも凄いんですよね。

100年以上も前の作品とは思えないような読み心地でした。

ただ、労働に対する考え方だとか、人の生き死にについてだとか、現代日本とは明らかに異なる価値観も散見されて、それがまた面白かったです。

 

 

29.『隣の家の少女』ジャック・ケッチャム

 

 

イヤな気持ちになりたくないなら、読まない方がいい。

 

 

▼『隣の家の少女』はこんな作品!

隣の家の少女が虐待されているのを知っている少年の話

・ヘタなイヤミスよりよっぽどイヤな気持ちになる小説

スティーヴン・キングが称賛した伝説の名作

 

 

 

隣の家の少女』のあらすじ

 

アメリカのとある田舎町に住む少年・デヴィッドは、隣の家の女主人・ルースに引き取られてきた少女・メグに心奪われる。

ほぼ同時期にデヴィットは、メグとその妹がルースに折檻を受けているのを目撃した。

 

やがてルースの矛先はメグへと集中し、虐待の内容は悪化の一途をたどる。

ついにはメグは地下室に監禁され、近所の少年たちも巻き込んでの凄惨な虐待の日々が続いた。

衰弱していくメグを見て、デヴィッドはメグを脱走させようと決めるが…。

 

 

 

隣の家の少女』の感想・レビュー

 

隣の家の少女』は、ジャンルでいえばホラーやサスペンスに該当するのかなと思うのですが、私は読んでいる間じゅう、イヤミスの読後感に近い気持ちを抱いていました。

 

主人公はヒロイン・メグが虐待されていることを知りながら、ほぼ何もできません

しかし虐待は苛烈の一途をたどり、主人公が見ている前でどんどん衰弱していくヒロイン…。

その光景を想像するだけでも落ち込みますし、もし自分が12歳で主人公の立場だったら、メグのために何かできるんだろうか…と考えるとなおのこと凹みます。

 

隣の家の少女』は、「虐待」というたった2文字の言葉の裏で、被害者はこんな目に遭っているんだ…ということを、突き付けられるような作品です。

それもそのはず、隣の家の少女』は実際に起こった虐待死事件にインスピレーションを受けて書かれた小説なのです……。

内容の生々しさにも納得……。

(詳しく知りたい方は「シルヴィア・ライケンス殺害事件」で検索してみてください)

 

 

でも『隣の家の少女』を読んで、私は後悔はしていません。

隣の家の少女』は、暴力がエスカレートする過程や、メグの苦しみを知っていて何もできない主人公の心理など、とても繊細に、かつ美化せず真摯に描かれた文学的な作品です。

 

ただし、イヤな気持ちになりたくない方にはこの作品はオススメしません…!

気になる方は、覚悟のうえお読みください。

 

【寄り道】お風呂で読書をする方法

今週のお題「お風呂での過ごし方」

 

 

はてなブログさんの今週のお題が「お風呂での過ごし方」とのことで。

今回は書籍レビューはひと休みして、お風呂で読書する方法についてご紹介します。

 

 

 

私は数年前まで「タイムアタックでもしてるんか?」というくらいお風呂タイムが短い人でした。

でも病気したときに、お医者さんに「ぬるめのお風呂にゆっくり浸かるといいよ~」と教わってから、「何かいいお風呂のお供はないかなぁ」と探していました。

 

そんなときに思いついたのが「お風呂で読書」です。

でも私、読書は根っからの紙媒体派。

紙の本をお風呂に持ち込む方法なんてあるのかしら…と調べてみたところ…意外にも、すぐに見つかりました。

それはジップロックと消しゴムさえあればできる方法でした!

 

具体的な方法は👇こうです。

 

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この方法のコツとしては、

  • ジップロックは大きめサイズを使うのがベター(小さいとページをめくる余裕がなくなるよ!)
  • 透明度が高いジップロックを使うこと(百均のキッチンコーナーに売ってるよ!)
  • 消しゴムはカバーを外しておく(使いかけの消しゴムで十分!)
  • 慣れ

 

また注意点やデメリットとしては、

  • ジップロックをきっちり閉めること(蒸気で本が湿っちゃうよ!)
  • ページをめくり損ねると、ページに折り目が付いちゃうことも…

 

という感じです。

慣れないと少々難しい方法ですが、慣れれば簡単にお風呂で紙の本が読めますよ!

 おかげでバスタイムが楽しくなり、お風呂でゆっくり体を温められるようになりました。


ジップロック&消しゴムを使った方法だと、お金がほとんどかからないもの嬉しいですね。

私は、消しゴムは使いかけのものを、ジップロックは100円ショップで10枚100円のやつを買って使っています。

ジップロックは繰り返し使うと曇ってくるので、本が読みにくいなってくらい曇ったら取り替えています。

それでも1枚につき10回以上は繰り返し使えますよ。

 

 

 

お風呂で読書をするためのグッズも色々あるんですが、個人的にはジップロック&消しゴムを使った方法で十分だと思っています。

でも、よりよいバスタイム読書をお求めの方は、専用グッズを試してみるのも一興ではないかと!

せっかくなので、気になった商品をいくつかご紹介しておきますね。

 

 

▼正統派な商品はこちら。防水ブックカバーのようです。

 

▼これなんて指サック付きで面白い!高いですが…。

 

▼こんな商品も見つけました。バスブックスタンドですって!

あくまでブックスタンドなので防水機能はないんですが、見た目といい発想といい、普通に惹かれちゃいました…。

お風呂場のテーブルとしても良さそう…長風呂がはかどりますね…。

 

 

 

それでは、のぼせないようご注意のうえ、お風呂の読書をお楽しみください!

 

 

28.『アクロイド殺し』アガサ・クリスティー

 

叙述トリックの金字塔。「映像化不可能」の面白さ。

 

 

 

▼『アクロイド殺し』はこんな作品!

アガサ・クリスティーポアロシリーズ」の中の1作

 ※3作目にあたるが、『アクロイド殺し』だけ読んでも問題ナシ!

・「フェア・アンフェア論争」を巻き起こした、色んな意味で歴史に残る名作

叙述トリックを駆使したどんでん返しが特徴的

 

 

 

 

アクロイド殺し』のあらすじ

 

村の名士・アクロイド氏が刺殺体で発見された

前の晩アクロイド氏と会っていた「わたし」ことシェパード医師は、検死を行う中で、アクロイド氏が持っていた手紙が消えていることに気付く。

 

容疑者の最有力候補であるアクロイド氏の養子は行方をくらませ、捜査は低迷。

そんな中、「わたし」の隣家に最近住み始めた奇人が、実はかの名探偵・ポアロその人であることが判明する。

ポアロは事件究明に乗り出すと、助手に「わたし」を指名し…。

 

アガサ・クリスティーの代表作のひとつに挙げられる名作ミステリー小説。

 

 

 

アクロイド殺し』の感想・レビュー

 

やっぱり『アクロイド殺し』は面白い!

先日久しぶりに読み返しましたが、結末を知っているとまた違った楽しみ方ができますね。

これがどんでん返しモノの楽しさであり、また切ないところでもあり…(初見時の衝撃は、2度目以降では絶対に得られませんからね…)。

 

 

 

アクロイド殺し』は叙述トリックーーーつまり書くべき事実をあえて書かなかったり、読者の先入観を利用したりして、読者の推理を誤った方向に誘導するミステリーの手法ですねーーーを駆使したミステリー小説で、常識破りな結末から、発表当時「フェア・アンフェア論争」を引き起こした、ある種 問題作でもあります。

 

そしてこの叙述トリックこそ、『アクロイド殺し』が「映像化不可能」と言われるゆえんです。

「映像化したやん」という話についてはのちほど!

 

でも『アクロイド殺し』の面白さも、やっぱり叙述トリックによるところが大きいんですよね。

結末の意外性はずば抜けていますし、1世紀近くも前の小説ですが、今読んでも「オォッ」となります。

 

よく読むと伏線は(当然ながら)きちんと張られていますし、読者が真相に気付く余地も存分に与えています。『アクロイド殺し』がフェアかアンフェアかで言ったら、やっぱりフェアなんじゃないかと思うんですよね。

様々な形のミステリー小説が登場した今だからこそ言えるのかもしれませんが。

 

 

でも『アクロイド殺し』は、どんでん返しも驚きながら、ポアロが最後に犯人に(暗に)言い渡す提案もまた、結構衝撃的です。

時代を反映した提案と言いますか…現代ではまず考えられない話です。

私は数年ぶりに読み返したとき、どんでん返しよりもそっちに「えっ!?」となってしまいました…(笑)

 

 

色んな意味で衝撃的な結末…ぜひあなたの目で確かめてみてください…!

 

 

 

 

 

さて、ここからは余談です。

 

アクロイド殺し』は「書き手のミスリード」によって成立するミステリー作品なので、長年「映像化不可能」と言われてきました。

でも映像化されましたね。しかも日本で!

 

タイトルを日本風に、舞台設定も日本に変えるという大胆な方法で制作されたドラマ、『黒井戸殺し』

私は正直、最初は「どうなの…?」「もしやパロディ…?」と警戒しながら『黒井戸殺し』を見たのですが、想像以上に原作に忠実で驚きました。

叙述トリックも見事に再現されていて、真相が明かされるシーンでは歓声を上げてしまいました。

あれは良い…。原作ファンも納得のドラマだと思います!

 

 

アクロイド殺し』のポアロにあたる方の演技がちょっとクセが強いですが(笑)、原作で言うシェパード医師役が大泉洋なのがナイスすぎて、最後まで抵抗なく見られました。

アクロイド殺し』を読んでいる間も、いい意味でよぎりますもん…大泉洋が…。(笑)

 

「小説よりも映像作品の方が好きだわ」という方には、『アクロイド殺し』よりも『黒井戸殺し』の方が見やすいと思います!

 

 

27.『毒入りチョコレート事件』アントニイ・バークリー

 

 

ひとつの事件に8つの推理。

ミステリー好きなら一度は読むべし!な古典的名作。

 

 

▼『毒入りチョコレート事件』はこんな作品!

・1929年に発表されたイギリスの名作ミステリー小説

・複数探偵による、推理合戦ミステリにして多重解決モノ

・「推理小説」そのものに切り込むメタフィクション的な側面もあり…

 

 

 

『毒入りチョコレート事件』のあらすじ

 

ロジャー・シェリンガムが創設した「犯罪研究会」に、スコットランド・ヤードの刑事からとある事件が持ち込まれた。

毒入りチョコレート事件。毒入りチョコレートを試食した夫妻が被害に遭った未解決事件だ。

被害者の夫は一命を取り留めたが、夫人は死亡。

たが彼らが食したチョコレートは、本来、他の人間に送られたものだった…。

 

ロジャー含む「犯罪研究会」の6人のメンバーは、6人それぞれが独自に調査を行い、一人ずつ推理を発表することを思いつく。

その果てに本作では、警察の推理と合わせ、ひとつの事件に対して8つもの推理が提示されることになるのだが…。

 

鋭い角度で「推理小説」そのものに切り込む、ミステリー界の傑作。

 

 

 

『毒入りチョコレート事件』の感想・レビュー

 

面白い。

面白い!!

 

6人もの探偵役が、ひとつの事件に対して、全く異なる推理を次々に展開していく様子。

しかも探偵役1人目の発表内容から、すでに「これが正解なのでは?」と思えるような推理が提示されます。

2人目でも。

3人目でも…!

どの探偵役の推理も、すべて理に叶っていて正しいように見えるんです。

読んでいて本当に興奮しました。

 

事件そのものは一見単純。

その割に判明していることが少ないから、読者の推理(あるいは予想)の余地も存分にあります。

私も、「この人が犯人では?」と考えたり、「こういう結末だったら面白いよな」と想像しながら読み進めていったんですが…

読者が立てた予想は、探偵たちの推理によって早々に、ことごとく潰されていくんです。

 

立てた仮説をひとつひとつ丁寧に否定されるのがものすごく気持ちよくて…。

作者の手のひらの上で転がされている感がたまりませんでした。

 

 

 

推理の内容に、探偵役それぞれの立場や性格などが存分に反映されている点も面白いです。

なのに、やっぱりどの推理も正しいように見える…。

これが、『毒入りチョコレート事件』が持つメタフィクション的要素です。

ミステリー小説は、作者の誘導によって読者にいくらでも「これが唯一の真実」と思い込ませることができる。

たとえ、実は他に推理の余地があったとしても…。

 

 

 

『毒入りチョコレート事件』のラストにはどんでん返しも待ち受けており、最初から最後まで本当に面白いミステリー小説でした。

 

『毒入りチョコレート事件』は20世紀前半にイギリスで発表された作品ですから、(分かりやすく翻訳されているとはいえ)現代日本人が読むと分かりにくい表現・親しみがない描写もちょいちょいありますが、それを乗り越えれば本当に面白いミステリーの世界が待っています。

ぜひじっくり読み進めていってください…!

 

26.『殺戮にいたる病』我孫子武丸

 

 

平凡な家庭が孕む狂気。

 

 

 

▼『殺戮にいたる病』はこんな作品!

・「かまいたちの夜」シナリオで有名な我孫子武丸の代表作

叙述トリック&どんでん返しあり

・猟奇殺人がテーマ。グロいのが苦手な方は要注意!

 

 

 

『殺戮にいたる病』のあらすじ

 

東京の繁華街で、猟奇的殺人を繰り返すシリアルキラーが出現した。

ターゲットは女性。

犯行が重なるにつれ、手口の凄惨さは増していく。

 

そんな猟奇殺人を中心に、3人の視点を移り変わりながら物語は進んでいく。

事件を追う元・警部。

「息子は犯罪者なのではないか」と疑う母親。

そして「犯人」。

彼らの手が真相を掴むとき、世界はひっくり返る。

 

 

 

『殺戮にいたる病』の感想・レビュー

 

グロいです。

犯人視点の描写が克明すぎる…。

しかも犯人は、殺人を繰り返すうちに死体の一部を切り取って持ち帰り、あることに使うということまでやり始めるんですが、本人がそれを異常と思っていないところが心理的にグロいとでもいいますか…けっこうキます。

 

持ち帰った死体の一部を冒涜しながら、「なんて可哀想なんだ、自分…」くらいのテンションですからね、犯人。

いや……。ヒェ……。と思いながら読んでました。

 

でも犯人の気持ちが分からないでもないのが何とも怖いです。

いや、死体をどうこうという部分ではなくて。

何というか、犯人が抱えている孤独感みたいなものや、胸に空いている穴を埋めてみたり、でもやっぱり埋まらなかったり…という繰り返しが、言ってしまえばすごく「普通の人」の感覚に近くて…。

『殺戮にいたる病』では、常人には理解できない心理を、常人に理解できるように書いてあるのかなぁ、と感じました…。

 

 

 

ここまでの感想だけ見るとホラー小説みたいですが、『殺戮にいたる病』はミステリー小説としてかなりの傑作です。

事件を追う刑事、息子を疑う母親、そして犯人。

この3者の視点をリレーしながらストーリーが進んでいくのですが、「刑事」と「母親」がじりじりと「犯人」に手を伸ばしていく様子がすごく巧みに描かれていて、その間に挿入される「犯人」視点の異常性も相まってすごく面白く、ノンストップで読んじゃいました。

 

ラストのどんでん返しでは口をあんぐり開けちゃいましたね。

どんでん返しにビックリしただけではなく、おそらく作中で一番救われなかった人物の存在に胸が締め付けられ、読後はその人物にまつわる伏線について深く考え込んでしまいました…。

 

 

 

ある程度の残酷描写が平気な人で、叙述トリックやどんでん返しモノのミステリー小説をお探しの方は、ぜひ一度『殺戮にいたる病』を読んでみてください!

 

25.『鼻』曽根圭介

 

 

ホラーであり、ミステリーでもあり…。

 

 

▼『鼻』はこんな作品!

日本ホラー小説大賞短編賞受賞作

・人間が「鼻」の有無で差別される世界が舞台

・ミステリーのようなどんでん返しアリ

 

 

 

 

『鼻』のあらすじ

 

この世界では、人間は2種類に分けられていた。

鼻を持つ「テング」と、鼻のない「ブタ」だ。

テングはブタに迫害され、最終的には"特別区"に送られる。

外科医の「私」はそんなテングを救うべく、違法な「テングからブタへの転換手術」を決意するが…。

 

一方、刑事の「俺」は、少女の連続行方不明事件を追っている。

自己臭症の「俺」は、自分の臭いを馬鹿にされているという思い込みから、一般人への暴行を繰り返す異常性を持っていた…。

 

「私」と「俺」の物語が交錯するとき、恐るべき真実が明らかになる。

 

 

 

『鼻』の感想・レビュー

 

『鼻』はずっと前から気になっていた小説で、表紙も新たに再版されたのでようやく購入できました…!

読んでみたら期待以上の内容で…。再版を待っていた甲斐がありました。

 

 

『鼻』は3作からなる短編集なのですが、その中でも表題作『鼻』はやっぱり抜きん出て素晴らしい作品だと思います。

外科医の「私」と刑事の「俺」のストーリーは、全く交わりようのない物語に見えるので、読んでいるあいだ先の展開が気になってしょうがなかったです。

鼻の有無で人間を分ける異常な世界観や、刑事という肩書を持ちながら正気とは思えない「俺」の異常性など、恐怖要素が常に付きまとい、じわじわとした怖さに包まれました。

 

そして『鼻』のラストにはどんでん返しともいえる展開が待っていて…。

ミステリー要素が強いホラー小説とでも言うのでしょうか。かなり上質な作品でした。

 

 

 

ちなみに、『鼻』に収録されている『受難』という作品も好きです。

『受難』は助かりそうで助からない場所に監禁された男の話で、不条理系ホラーと言うのかな?読んでいる間、心も肌もジリジリするような作品でした…。

恐怖度で言えば『鼻』といい勝負だと思います。

 

 

『鼻』や『受難』の読み心地は、ミステリー…しかも「イヤミス(読後イヤな気持ちになるミステリー作品のこと)」に近いホラー小説、という感じでした。

『鼻』も『受難』もイヤミスというわけではありませんが、イヤミス好きならほぼ確実に、両方楽しめると思いますよ!