5つ星の本棚

大好きな本をレビュー&オススメする書評ブログです。

24.『アリス殺し』小林泰三

 

 

「スナークはブージャムだった。」

世界がグルンとひっくり返される、衝撃と快感。

 

 

 

▼『アリス殺し』はこんな作品!

小林泰三の「メルヘン殺し」シリーズ1作目

・ミステリー×ファンタジーの斬新な推理小説

どんでん返しが圧巻!

 

 

 

 

『アリス殺し』のあらすじ

 

大学生・亜理(あり)の身には、最近奇妙なことが起きている。

毎日決まって「不思議の国のアリス」の夢を見るのだ。

 

ある日亜理の夢の中で、ハンプティ・ダンプティが墜落死する。

するとその翌日、大学で「玉子」と呼ばれていた研究員が屋上から墜落死していた…。

その後も、亜理の夢の中で事件が起こると、決まって現実世界でも同じような事件が起こった。

 

夢と現実がリンクしている…。

ハンプティ・ダンプティの殺害容疑を掛けられた亜理は、夢と現実、その両方から怪事件の解決に挑むが…。

ミステリー×ファンタジー。全く新しい形で綴られた驚愕の推理小説

 

 

 

『アリス殺し』の感想・レビュー

 

めちゃめちゃ新しいタイプのミステリー小説だと思います。

ミステリーに「夢」というファンタジー要素が追加されることで、何でもありの世界に成り下がるかと思いきや……トンデモ要素は全然なく、読者に求められるのはあくまで常識的な推理のみ。

ミステリーとファンタジー、ふたつの一見相容れないジャンルが、本当にうまく融合されています!

 

 

 

そして『アリス殺し』の特筆すべきはどんでん返しですね!

細やかに張られた伏線の数々…そしてそれらの伏線が一気に回収される瞬間!

「これこれ!これが好きでミステリー小説を読んでるんだよ!」と思うような、驚きと快感が駆け巡る瞬間でした…。

文字通り盤ごとグルンとひっくり返されるようなラストが本当に圧巻で、記憶を消してもう一度読み直したいくらい見事でした。

 

 

 

私自身は「不思議の国のアリス」をほとんど読んだことがないので恐縮なのですが……

『アリス殺し』の半分は「不思議の国のアリス」要素で構成されていると言ってもいい作品なので、アリス好きならなおのこと楽しめる作品ではないかと思います。

 

あっでも多少グロい作品なので……アリスの世界観で残酷描写が展開されても許せる方だけ読んでくださいね!

 

23.『密室殺人ゲーム王手飛車取り』歌野晶午

 

 

不謹慎で面白い、リアル推理合戦ミステリー。

 

 

 

▼『密室殺人ゲーム王手飛車取り』はこんな作品!

歌野晶午の「密室殺人ゲーム」シリーズの1作目

・殺人トリックを考え、実行したうえで出題する推理ゲームの物語

・いろんなジャンルのミステリーを楽しみたい方に!

 

 

 

 

『密室殺人ゲーム王手飛車取り』のあらすじ

 

主人公・頭狂人(トウキョウジン)はダースベイダーのマスクをかぶり、パソコンのウェブカムの前に座っている。

「頭狂人」とはもちろん本名ではない。「ゲーム」で使っているハンドルネームだ。

AVチャットに集う他のメンバーも、変装などで容姿をぼかし、個性的な名前を使って素性を隠している。

 

彼らが興じるのは「殺人推理ゲーム」。

それもただのゲームではない。

彼らは考えたトリックを、人を殺すことで実現し、それを問題に仕立てて他のメンバーに出題するのだ。

 

 

彼らは「ゲームの一環として」人を殺す。

人が殺されれば、当然ニュースにもなる。

そのニュースもまた、彼らにとってはゲームのアクセントのひとつでしかない。報道された事実は、推理を組み立てるうえで重要な要素となるのだ。

 

繰り返されるリアル殺人ゲーム。

彼らが行きつく先にあるのは…!?

不謹慎で面白い、リアル推理合戦ミステリー。

 

 

 

『密室殺人ゲーム王手飛車取り』の感想・レビュー

 

『密室殺人ゲーム王手飛車取り』のミソは、物語の開始時点ですでに、「リアル推理ゲーム」が何度か行われたことがある、という点です。

つまり主人公も全然凶悪犯罪者なんですよね。

 

私は『密室殺人ゲーム王手飛車取り』を読み始めるとき、無意識に主人公の善性というものを期待してしまっていたのですが(主人公の出題ターンが後半だから尚更です。主人公だけは人を殺さないで済むのではないか…とか)、

それがあっさり否定されたのが結構衝撃的でした。

 

 

 

『密室殺人ゲーム王手飛車取り』は不謹慎なテーマ、そして人殺し集団とは思えない(いや…逆に人殺し集団"らしい"か!?)軽快な掛け合いが面白いですが、ミステリージャンルのバラエティパックともいえるようなところもまた魅力です。

 

『密室殺人ゲーム王手飛車取り』では、主人公たちが各々の好みのミステリージャンルで勝負を仕掛けてきます。

たとえば、

ミッシングリンク(連続殺人事件の被害者たちの共通点は?)

怪奇ミステリー。

トラベルミステリー。

犯人当て……などなど。

要するに『密室殺人ゲーム王手飛車取り』は、1冊で幾通りものミステリージャンルを味わえる、とってもお得な小説なんです。

 

中には叙述トリックを駆使した、あっと驚くどんでん返しもあり…。

ぜひ最後まで読んでみてほしいミステリー小説です。

 

 

 

ここからは余談ですが…

『密室殺人ゲーム王手飛車取り』のラストシーンには、おそらく賛否両論あるかと思います。

私も最初読んだときには少し引っかかってしまいましたが、何度か読み返していくうちにじわじわと味を感じるようになっていきました。

 

 

『密室殺人ゲーム王手飛車取り』には続編があり、『密室殺人ゲーム2.0』『密室殺人ゲーム・マニアックス』と続いていきます。

 

『密室殺人ゲーム王手飛車取り』の続きである『密室殺人ゲーム2.0』では、相変わらず「頭狂人」をはじめとするメンバーが和気あいあいとゲームに興じており、『密室殺人ゲーム王手飛車取り』を読み切った人は「!?」と混乱することと思いますが…

『密室殺人ゲーム2.0』の中で、『密室殺人ゲーム王手飛車取り』の最後について真実が明かされますので、本当の結末を知りたい方はぜひ。

(ただ、謎を謎のままで取っておくのもアリだと思います…!)

 

 

22.『星降り山荘の殺人』倉地淳

 

 

どんでん返しミステリー」をお探しの方に、真っ先にオススメしたい小説。

 

 

 

▼『星降り山荘の殺人』はこんな作品!

読者への真っ向勝負が魅力の本格ミステリー小説

・クローズド・サークル(陸の孤島)もの

叙述トリックを用いた圧巻のどんでん返しは必見!

 

 

 

 

『星降り山荘の殺人』のあらすじ

 

主人公・杉下和夫は広告代理店で働くサラリーマン。

杉下はある日、正義感から職場で問題を起こしてしまい、部署を異動になってしまう。

 

「カルチャークリエイティブ部」というよく分からない部署に配属になった杉下は、「スターウォッチャー」というよく分からない肩書を持つ二枚目・星園詩郎のもとでマネージャー見習いとして働くことになった。

初めは星園を胡散臭く思っていた杉下だったが、出会って早々、星園の卓越した推理力を目の当たりにし当惑する。

 

 

そんな杉下と星園はある日、仕事で雪に囲まれた山荘に行くことに。

山荘にはUFO研究家、女流作家など、風変わりな面子が揃っていた。

やがて山荘は吹雪に見舞われ、交通は遮断。電気も電話も通じない陸の孤島(クローズド・サークル)状態に。

そんな中、山荘では次々と殺人事件が起こる…。

 

作中に散りばめられる、読者への挑戦。

ラストに待ち受けるのは圧巻のどんでん返し。

ミステリー好きにはたまらない傑作推理小説

 

 

 

『星降り山荘の殺人』の感想・レビュー

 

どんでん返しで声出ました。

 

『星降り山荘の殺人』って、読者に対してめちゃめちゃフェアなんですよね。

各章のはじまりに、必ず注意書きがあるんですよ。

たとえば、

「主人公は読者と情報を共有する立場であり、犯人では有り得ない

「この章で述べられているこの推理は正しい」

などなど…。

このフェアさ、この真っ向勝負感、アガりません…!?

私 本屋さんで、この注意書きを見た瞬間に「あっ、好き」ってなって買いましたもん。

 

 

でも、ここまで丁寧に注意書きがされていると、当然読者もかなり注意深くなるじゃないですか。

増してや帯に「きっと貴方も騙される!」って書いてある小説ですし。

どんでん返しがあるんだろうな、というていで読みますよ、こちらも。

なのに見事に騙されました。

 

「自分がどう騙されていたのか」を悟った瞬間の、「あーッ!そういう……!?」っていう驚き…。

これまで無意識に頭の隅に置いてあった伏線の数々が、頭の中をブワーッと駆け巡る感覚…。

ミステリーからしか摂取できない極上の瞬間ですよね…。

 

 

陸の孤島という舞台設定も最高に素敵です。

広義の密室モノですよね。

個人的にはガチガチの密室よりも、クローズド・サークルの方が好みでして…ホラ、宿泊客(あるいは住人、乗客…)同士の疑心暗鬼や恐怖感も増しますし…。

『星降り山荘の殺人』はそんな私のツボにドンピシャで、読んでいる間じゅうワクワクが止まりませんでした。

 

 

 

ちなみにこの『星降り山荘の殺人』、事件が起こるまでに150ページ以上とけっこうかかるんですが、

読んでいて全然気にならないどころか「このまま事件起こらなくてもいいよ~」って思うくらい面白かったです。

ミステリーを抜きにしても、物語として純粋に面白い。

そんな超オススメの作品です。

 

21.『みんな邪魔』真梨幸子

 

 

私の中で、イヤミスといえば『みんな邪魔』。

 

 

▼『みんな邪魔』はこんな作品!

イヤミス三大女王のひとり・真梨幸子のミステリー小説

・とある少女漫画を愛する中年女性たちの物語

・中二心をくすぐられるネーミングセンスも魅力

 

 

 

 

『みんな邪魔』のあらすじ

 

少女漫画「青い瞳のジャンヌ」の愛読者で構成された「青い六人会」。

エミリー、シルビア、ミレーユ、マルグリット、ガブリエル、ジゼル。それが青い六人会を構成するメンバーの名前だ。

もちろん本名ではない。いわゆるハンドルネームだった。

 

若く美しいガブリエルを除き、メンバーは40代以上の中年女性

彼女たちは定期的に、華やかな衣装を身にまとい、人目を気にせずに会食を楽しんでいた。

 

ところがある時、「青い六人会」のメンバーのひとりが失踪

それを境に、ひとり、またひとりと、虚構で彩られた中年女性たちの正体が露わになっていく。

そして、ついにメンバーの惨殺事件まで発生…。

 

嘘、妄想、熱狂、現実逃避…。

「平凡な」女性たちが暴走する恐ろしいイヤミス小説。

 

 

 

『みんな邪魔』の感想・レビュー

 

イヤミス」の条件は「読後にイヤな気持ちになること」ですが、『みんな邪魔』は全編を通して平均的にイヤ指数が高いです。

人間関係のドロドロ具合、キャラクター達の虚飾の剥げ方…

中でも実母の介護に挑戦する「ミレーユ」の物語は、描写がリアルなだけにちょっと目を背けたくなるイヤさがあります。

 

 

人間誰しもが抱えているイヤな部分が誇張されたキャラクター&エピソードが多いため、少なからず同族嫌悪的な気持ちが湧くのもまたイヤですね。

 

「自分はこんな登場人物とは違う」という気持ちと「自分の中にもこの登場人物のような考え方がある」…と気付いたときの不快感…。

いや~、イイですね…。(笑)

色んな意味でキツイ話が多いですが、「自分にも無関係な話ではない」と思わされるようなストーリーもあり、反面教師という意味でも読んでよかった小説です。

 

 

 

『みんな邪魔』はモノローグやセリフが多く、耽美的な世界観と現実とのギャップの大きさが面白くて、かなりサクサク読めてしまう作品です。

「青い六人会」というネーミングや構成メンバーのハンドルネームなどにも正直惹かれますし、このネーミングセンスが読みやすさの一因にもなっています。

 

 

『みんな邪魔』のラストには叙述トリックを利用したどんでん返しもあり、私は見事に騙されました。

が、ミステリ玄人さんならたぶん推理で辿り着けるラストなので、どちらかというと初心者さんにオススメな作品です。

 

もちろん、イヤミス好きには迷いなく推せる小説ですよ!

 

20.『銃』中村文則

 

 

拾った銃を愛でる青年。彼と銃の行き着く先は…。

 

 

『銃』はこんな作品!

・「教団X」で有名な中村文則のデビュー作

・純文学

・どんでん返し的な要素あり

 

 

 

 

『銃』のあらすじ

 

大学生の主人公・西川はある夜、河原で男の死体と、そのそばに落ちていた一丁の銃を発見する。

その銃の美しさに魅せられた西川は、銃を自宅に持ち帰ってしまった。

銃を愛でる日々の中で、西川は「自分はいつか銃を撃つ」という確信を持つようになるが…。

 

最後まで読んでほしい衝撃の純文学。

 

 

 

『銃』の感想・レビュー

 

中村文則の『銃』は、私が読書にハマったきかっけの作品です。

当時、私は読書歴もそこそこの、そこそこフレッシュな高校生。

対して『銃』の主人公・西川は無気力な大学生ですし、当時の私が共感できる部分はあまり無かったハズなのですが…

なぜかスーッと物語に入り込んでしまいました。

のみならず、読んでいくうちに、主人公・西川と自分が少しずつ同化していくような気さえしたのです。

 

『銃』で描かれる主人公の思考の流れは本当にリアルで、人の頭に一瞬のうちに浮かび、そして消えていくいくつものことが、何も取りこぼされずに克明に描かれているようでした。

まるで他人の頭に自分が入っているかのような…

自分が他人の人生を歩んでいるかのような…

読んでいて、そんな気持ちになったんです。

 

 

そんな風に、西川≒自分のような状態になってからの……ラストシーン。

忘れられません。

衝撃(というかショック)を2週間引きずりました。

ただただ茫然として、何も手につきませんでしたね…。

 

 

 

『銃』のラストはどんでん返しとは違いますが、どんでん返しに匹敵する衝撃度です。

私がどんでん返しモノが大好きになった原因というか…

今でも私はどこかに、『銃』初見時の衝撃を求めているんでしょうね。

 

 

 

『銃』は私にとって、「人生で衝撃を受けた小説」堂々の第1位です。

もう一度記憶を消して読みたいような…

あんな思いは二度とごめんなような…

 

 

(余談ですが、私は『銃』の表紙デザインは初期のモノ👇が大好きです。自分でも不思議に思います)

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19.『お孵り』滝川さり

 

 

土俗ホラー好きにはたまらない!タイトル回収も見事なホラー小説。

 

 

▼『お孵り』はこんな作品!

・第39回横溝正史ミステリ&ホラー大賞読者賞受賞作品

「生まれ変わり」が信仰されている村でのストーリー

・純・和風ホラー!ミステリー要素もアリ

 

 

 

 

『お孵り』のあらすじ

 

主人公・橘佑二は、婚約者・乙瑠(いちる)の故郷の冨茄子村(ふなしむら)を訪れた。結婚のあいさつをするためだ。

ところがある夜、佑二はその村で異様な儀式を目撃してしまう。

実は村では生まれ変わりが信じられており、子を授かった女性はその異様な儀式に参加しなければならないのだ。

 

佑二は儀式に嫌悪感を抱き、村の出身者である乙瑠も同意したが、なんと乙瑠は生まれ変わり自体は頑なに信じていた。

そのため乙瑠は、村と距離を置きたい気持ちはあるが、子を授かったら必ず村に戻らなければならない、という意思を佑二に伝える。

 

 

しばらくのち、乙瑠は妊娠。

そして約束通り村で出産することになったのだが、生まれた子供は乙瑠ともども、村に囚われてしまう…。

 

佑二は冨茄子村から、異様な信仰から家族を取り戻せるのか。

どろどろとした恐怖とテンポのいいストーリーが魅力の土俗ホラー小説。

 

 

 

『お孵り』の感想・レビュー

 

ミステリー要素のあるホラー作品はイイですよね。

『リング』しかり、『ぼぎわんが、来る』しかり。

『お孵り』なんて、出だしからすでにミステリー調ですもん。とある事件の新聞記事を抜粋した1ページ目には、否応なしにワクワクさせられます。

 

謎解き部分は、ミステリー作品が好きな人なら割と解きやすいかと思いますが、分かったうえで読んでも十二分にゾッとさせられる巧みなストーリーです。

 

 

 

『お孵り』の舞台は現代なのですが、これが土俗ホラーというジャンルとうまく噛っています。

むしろ科学の発展した「現代」で「生まれ変わりが信仰されている」というギャップの大きさが、事の異様さを強調していてとても良いです。

 

その異様な世界に、平凡な一般人(主人公)がひとり投入されたときの心もとなさ。

さらに、自分と同じ感覚を持っていると信じていた妻も、根っこの部分は村の風習に染まっていると分かった時の「えっ……」という感覚。ホラー演出として最高です。

 

 

 

『お孵り』はストーリーのテンポもかなり良く、私は2日で一気に読み切ってしまいました。

 

タイトル回収も実に鮮やかで、テーマ自体はドロドロホラーですが、読後感は爽やかと言っても良いくらい

ホラー初心者さんにもオススメできるホラー小説です!!

 

18.『廃用身』久坂部羊

 

 

【ある医師の遺稿】と【編集部註】の二部構成。

斬新すぎる医療小説。

 

 

▼『廃用身』はこんな作品!

・実話(ノンフィクション)だと誤解するようなフィクション作品

老人医療を題材にした医療小説

・その医師の治療は革新か、それとも悪魔の所業か…

 

 

 

 

『廃用身』のあらすじ

 

老人のデイケア医療に携わる漆原医師は、老人たちの「廃用身」に着目していた。

老人たちは、回復の見込みがない「廃用身」をぶら下げ、「廃用身」に生活を邪魔されながら暮らしている。

そんな老人たちを見る中で、漆原医師はある画期的な治療方法を閃いた。

「廃用身」の切断手術である…。

 

しかし、漆原氏の急逝とともに、「Aケア」と呼ばれた廃用身の切断治療は封印されることとなる。

「Aケア」とは何だったのか。

そして漆原医師とは、本当はどういう人物だったのか…。

「老人医療」という社会問題に切り込む衝撃作。

 

 

なお「廃用身」とは、麻痺して回復する見込みがない手足を意味する架空の医療用語である。

 

 

 

『廃用身』の感想・レビュー

 

私は医療小説が好きなのですが、『廃用身』はこれまで読んだ医療小説の中でTOP3に入るくらい好きです。

とにかく構成が斬新!!

『廃用身』は、老人医療に携わった漆原医師の【遺稿】と、それに対する【編集部註】の2部で構成されており、「全編が作中作」とも言える構成なんです。

 

特に「遺稿」は小説ではなく新書のような書き方で綴られており、内容が内容なだけに、これはフィクション?それともノンフィクション?と混乱してしまいます。

ラストには作中作の奥付もあり、読後には何とも言い難い感情に包まれます。

 

 

『廃用身』で語られる「不要な肉体を切除してしまおう」というテーマも非常にセンセーショナルです。

ところが漆原医師の遺稿を読んでいくと、センセーショナルどころか、「廃用身の切断手術」という治療法がとても画期的で、正当性しかないことのように感じられてきます。

それこそ、「私もいつか体の一部が廃用身になったら、ぜひ切断してもらいたいわ♪」と思うくらい…。

 

でも後半の「編集部註」を読むうちに、だんだんとその気持ちは揺らいでいきます。

そして『廃用身』を読み終わったあとも、老人医療について、「廃用身」という部位について、ずっと考え込んでしまう…。

そんな、読者や世間に大きな問題を投げかけてくるような医療小説です。

 

 

『廃用身』の作者・久坂部羊は医師でもあります。

そのため『廃用身』には、実際に医療現場に携わった医師にしか描けない生々しさがあり、目をそらすことができません。

まずは「目次」と「まえがき」だけでも、ぜひ目を通してみてください。