18.『廃用身』久坂部羊
【ある医師の遺稿】と【編集部註】の二部構成。
斬新すぎる医療小説。
▼『廃用身』はこんな作品!
・実話(ノンフィクション)だと誤解するようなフィクション作品
・老人医療を題材にした医療小説
・その医師の治療は革新か、それとも悪魔の所業か…
『廃用身』のあらすじ
老人のデイケア医療に携わる漆原医師は、老人たちの「廃用身」に着目していた。
老人たちは、回復の見込みがない「廃用身」をぶら下げ、「廃用身」に生活を邪魔されながら暮らしている。
そんな老人たちを見る中で、漆原医師はある画期的な治療方法を閃いた。
「廃用身」の切断手術である…。
しかし、漆原氏の急逝とともに、「Aケア」と呼ばれた廃用身の切断治療は封印されることとなる。
「Aケア」とは何だったのか。
そして漆原医師とは、本当はどういう人物だったのか…。
「老人医療」という社会問題に切り込む衝撃作。
なお「廃用身」とは、麻痺して回復する見込みがない手足を意味する架空の医療用語である。
『廃用身』の感想・レビュー
私は医療小説が好きなのですが、『廃用身』はこれまで読んだ医療小説の中でTOP3に入るくらい好きです。
とにかく構成が斬新!!
『廃用身』は、老人医療に携わった漆原医師の【遺稿】と、それに対する【編集部註】の2部で構成されており、「全編が作中作」とも言える構成なんです。
特に「遺稿」は小説ではなく新書のような書き方で綴られており、内容が内容なだけに、これはフィクション?それともノンフィクション?と混乱してしまいます。
ラストには作中作の奥付もあり、読後には何とも言い難い感情に包まれます。
『廃用身』で語られる「不要な肉体を切除してしまおう」というテーマも非常にセンセーショナルです。
ところが漆原医師の遺稿を読んでいくと、センセーショナルどころか、「廃用身の切断手術」という治療法がとても画期的で、正当性しかないことのように感じられてきます。
それこそ、「私もいつか体の一部が廃用身になったら、ぜひ切断してもらいたいわ♪」と思うくらい…。
でも後半の「編集部註」を読むうちに、だんだんとその気持ちは揺らいでいきます。
そして『廃用身』を読み終わったあとも、老人医療について、「廃用身」という部位について、ずっと考え込んでしまう…。
そんな、読者や世間に大きな問題を投げかけてくるような医療小説です。
『廃用身』の作者・久坂部羊は医師でもあります。
そのため『廃用身』には、実際に医療現場に携わった医師にしか描けない生々しさがあり、目をそらすことができません。
まずは「目次」と「まえがき」だけでも、ぜひ目を通してみてください。