43.『デビルマン』永井豪
1.『デビルマン』を3行くらいで紹介!
『キューティーハニー』や『マジンガーZ』などの作者、永井豪の漫画作品。
正義感が強い主人公がデーモン(悪魔)と合体して「デビルマン」となり、デーモンと戦う物語。
実写映画版はクソ映画の代名詞として名高いが、原作は名作中の名作。
2.『デビルマン』のあらすじ
主人公・不動明(ふどう あきら)は、気弱だが正義感が強い、ごく普通の高校生。
明はある日、親友・飛鳥了(あすか りょう)から衝撃的な話を聞かされる。
かつて地上を支配していたデーモン(悪魔)という存在の復活が近いこと。デーモンに抵抗し人間を守るためには、デーモンと合体しデビルマン(悪魔人間)となる必要があること。
そして…了の父がデーモンとの合体に失敗し、狂死したこと。
了の父では…大人ではだめだったのだ。
デビルマンとなるには、強い意思と善良な心を持った、正義を愛する若者でなければ。
そして、デビルマンとなりえる存在として、了は明を選んだ。
はじめは半信半疑だった明は、了に物証を見せられたことで話を信じ、了の望み通りデビルマンになる決意を固める。
人間としての幸せを捨て、いばらの道を歩むことを選んだのだ…。
3.『デビルマン』の感想・レビュー
『デビルマン』はかなり昔の作品で知名度も高いので(あと思いっきり語りたいので)、今回はネタバレ全開でレビューしていきます。
ネタバレはイヤだ!という方はブラウザバック推奨、そしてぜひ先に漫画を読んでみてください…!
『デビルマン』は最近の漫画ではあまり見ないほど物語の導入部分が長く、明がデビルマンになるまでにほぼ丸々1巻分かかります。
しかしだからこそ、明がデビルマンになるまでの過程や、そうならざるを得なかった背景の凄惨さと恐怖がひしひしと伝わってきますし、明がデビルマンになることで捨てなければいけなかった幸せの重さが胸にのしかかってきます。
そして明がデビルマンになるまでに、明の一般市民的な気弱さを存分に見せつけられたからこそ、デビルマンになる決意をした際の「きみ(了)ひとりが悪魔になって苦しむのを見るよりずっといい。おれもいっしょに悪魔になるほうが…」というセリフが胸に響くのです…。
こうして、人間を脅かすデーモン(悪魔)に対抗するために、デーモンと合体してデビルマンとなった明。
しかし、彼の気持ちは物語が進むにつれて変化していきます。
デーモンの体になっても人間の心を失わず、人間のために戦った明は、恐怖のために魔女裁判のごとく罪なき人々を殺す人間たちを見て絶望。
しかし、この世界を美樹が住めないデーモンの世界にはさせない、と、美樹のためだけに戦うことを決意します。
ところが美樹は、美樹を魔女と疑う人々によってすでに虐殺されていたのです。
美樹の最期を見た明は人間を完全に見限り、デーモンとデビルマン(=デーモンと合体しても人間性を失わなかった人々)どちらが生き残るか、という戦いに挑むことになります。
この気持ちの変化は悲痛の一言…。
また、明がデビルマンになったのは了の心を救うためでもあったのに、最終的には実はラスボスの立ち位置であった了との戦いに身を投じる点も、なんとも言えず切ないです。
(明が了の正体を確信し、了に本当の名前で呼び掛けるシーンは漫画史上屈指の名シーンだと思います。あのシーンの「良さ」を表現できる言葉が見つからないのがもどかしい…)
あと…デビルマンを語るうえで外せないのが、美樹ちゃんの最期。
美樹ちゃんは最終巻で、串刺しにされた生首というあまりにも惨い姿で登場します。
でも…美樹ちゃんはすごく頑張ったんですよ。
頼りの両親も明も不在の中、弟や自分自身を守るため、そして明ともう一度会うために、武器を持って押し寄せる大人たちを相手に必死に戦ったんです。
「私は魔女」と自分に言い聞かせ、気持ちを奮い立たせて。
でも、一緒に戦ってくれた協力者は殺され、弟も殺され、自らも深い傷を負ったとき、迫り来る人間たちに向かって彼女は呟きます。
「ちがう、魔女じゃない、魔女じゃ…」
あまりにも、あまりにも心を抉られるシーンです…。
ただの女子高生でしかない美樹ちゃんが、戦う覚悟を決めなければならなかった事態の凄惨さ。
そして、その覚悟が砕け散る瞬間の絶望感。
読んでいてどうにかなりそうでした…。
彼女の頑張りと最期を、私は一生忘れられないでしょう。
作者・永井豪はあとがきの中で、「『デビルマン』を描いている時、頻繁にトランス状態に陥った」と述べています。
『デビルマン』を読んでいると、それが本当によく分かる。
筆に込められた情念の圧が凄まじいんです。
絵柄の好む好まざるを押しのけて、すべての人の心に強く訴えかける何かが、『デビルマン』の絵には込められています。
『デビルマン』には上記で話した他にも、愛を持たないはずのデーモンの純愛を描いた話や、食った人間の顔を意識付きで背中に浮かび上がらせる外道なデーモンの話など、魅力あるストーリーが多くあります。
文庫版で新規挿入されたらしいタイムスリップの話は正直「これいる?」となりましたが…(※あくまで個人の感想です)
とにかく、『デビルマン』は残酷なだけではない、本当に奥が深い漫画なので、ぜひ一度読んでみてください…!!