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40.『いつかの人質』芦沢央

 

幼少期に誘拐された全盲の少女が、再び誘拐された。

 

 

▼『いつかの人質』はこんな作品!

・芦沢央のサスペンス・ミステリー

誘拐事件の被害者が再び誘拐される

・ミステリー初心者にもオススメ!

 

 

 

 

『いつかの人質』のあらすじ

宮下愛子は幼い頃、偶発的に誘拐され、そこで起こった事故により失明してしまう。

12年後、中学生になった愛子は、何者かによって再び誘拐されてしまった。

 

一方、人気漫画家・江間礼遠(えま・れおん)は失踪した妻・優奈を探していた。

優奈は愛子が幼少期に巻き込まれた誘拐事件の、犯人の娘だった。

 

12年前に誘拐された少女が再度誘拐されたのは何故か。

そして、加害者の娘が失踪している件との関りは?

見事などんでん返しが待ち受ける圧巻のサスペンス・ミステリー。

 

 

 

『いつかの人質』の感想・レビュー

幼少期に誘拐された少女が、また誘拐された。

一体誰が、何のために!?

このあらすじを見るだけで、否応なしにワクワクさせられます。

『いつかの人質』はあれこれ予想しながら読むのが(被害者の愛子ちゃんには申し訳ないですが)本当に楽しい作品で、にも関わらずラストまで見事に騙され続けました。

 

 

『いつかの人質』は誘拐事件の被害者(=愛子ちゃん)、被害者の親、刑事…など、様々な人の視点を行き来しながらストーリーが進みます。

特に被害者である愛子ちゃん視点の描き方が本当に巧みで、視点主が全盲だからこその不安感・恐怖感が強く伝わってきます。

まさにサスペンス小説。

 

 

『火のないところに煙は』や『悪いものが、来ませんように』でもそうでしたが、やはり芦沢作品は読みやすさが抜群!

『いつかの人質』も例にもれず、文章が不思議なくらいにさらさらと頭に流れ込んできました。

 

 

ただ、個人的には『いつかの人質』のラスト、ちょっとモヤッとするというか。

ネタバレOKの方だけ反転して読んでいただきたいんですが2度目の誘拐事件の犯人の妻、事件を美談というか、人生経験のひとつのように捉えている節がある気がするんですよね。

事件は自分のために起こったようなものなのに…。

被害者宅に「1度目の誘拐事件を題材に漫画を描いて発表しても良いですか」と許可を取りに行った畜生エピソードもそうですが、被害者の感情をあまりにも軽視している。

というか彼女からも夫からも、被害者のことが抜け落ちていると言っても良い状態です。

それほどまでにお互いしか見えていない、という点ではやはり、お互いにとって美談たりえるのでしょうが…。

 

でも、上記については作中でもフォローが入っているようにも感じていて。

小林寛太という人がインタビューの中で、礼遠と優奈の出会いについて

「もう完全に二人の世界」

「ほんと漫画みたいでしたよ」

「二人とも自分に酔っちゃってる」

「一度自分の役割っつーかキャラっつーかに入り込んじゃったら、もう周りなんか見てない」

と述べているんです。

これって、2度目の誘拐事件の実情をそのまま表しているようにも感じられます。

 

犯人たちの身勝手さと、それに対する作品からのフォロー(と私は受け取りました)も含めてよくできた作品だなぁと思います。

モヤッとする、という所も含めて好きなんです。

 

 

 

『いつかの人質』は文章が非常に読みやすく、見事などんでん返しと騙しのテクニックで読みごたえがある作品です。

ミステリー好きな方はもちろん、ミステリー初心者の方もぜひ!一度読んでみてください。

 

 

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