36.『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ
胸の内側をカリカリ引っかかれるような読み心地。
▼『わたしを離さないで』はこんな作品!
・臓器提供用に作られたクローン人間がいる世界観
・2016年には綾瀬はるか主演でドラマ化
この表紙がたまらないんですよね…。
『わたしを離さないで』のあらすじ
舞台は1990年代末のイギリス。
「介護人」である主人公・キャシーは「提供者」の世話をしながら、自身の奇妙な少女時代の記憶を辿りつつ、自分たちの秘密を紐解いていく。
「提供者」とは、臓器提供するために生み出されたクローン人間である。
「提供者」は臓器提供が時が来ると、手術で臓器を摘出される。それは何度かに分けて、「提供者」が死ぬまで繰り返される。
そんな「提供者」の介護を行うのが、キャシーが務める「介護人」。「介護人」もまた、「提供者」のひとりであった…。
センセーショナルなテーマと淡々とした語り口、ほろ苦いストーリーがイギリス・日本で人気を呼んだ名作文学。
『わたしを離さないで』の感想・レビュー
私が『わたしを離さないで』を最初に知ったのは、綾瀬はるか主演の日本版ドラマです。
衝撃的でしたね…。
臓器提供用の人間が存在することで一定の安心感を得られた世界。
しかし、主人公たちは「臓器提供する側」の人間で…。
クローン人間たちは精神的にも肉体的にも普通の人間と変わらない。なのに世間は人間とクローン人間を完全に区別しているし、クローン人間側には臓器提供に伴う死への恐怖が与えられ続ける。
主人公の友人(演-水川あさみ)が最後の臓器提供に向かう際、主人公に言い放った「わたしを離さないで!」という叫びが今も耳にこびりついています。
そんなドラマ版を最後まで見てから、私は原作の『わたしを離さないで』を購入しました。
読んでいくと、日本ドラマ版『わたしを離さないで』はが原作にかなり近い設定でありつつ、舞台が日本となっても違和感がないよう、また日本人が感情移入しやすいよう作られていることが分かり、改めて日本ドラマ版のクオリティの高さを実感しました。
そのうえで驚いたのが、原作『わたしを離さないで』の淡々とした語り口です。
日本ドラマ版では、クローン人間側の抵抗というか、不条理・異常な世界観への反抗を感じるシーンが多々ありました。
しかし原作では、ほとんどの人が「臓器提供する側の人間がいる世界」の常識にどっぷり浸かっており、「提供者は臓器提供をして死ぬ運命」という前提ありきでストーリーが進んでいくように感じました。
これが本当に…胸の内側をカリカリ引っかかれるような読み心地、とでも言うべきでしょうか…。
ヘタに嘆かれるより、不条理だと叫ばれるより、よっぽど辛かったです。
ラストシーンも何とも言えない読み心地で…。
全体的にほろ苦さが漂う作品でした。
『わたしを離さないで』はイギリスの作品であり、作品の舞台もイギリスなのですが、作者カズオ・イシグロは『わたしを離さないで』について、2015年までの自身の作品の中で最も「日本的」な小説だと評しています。
(訳者さんの腕のおかげもあるでしょうが)実際私も「違和感がなく読みやすい」と感じたので、興味が湧いた方、そして日本版ドラマをご覧になった方はぜひ。