5つ星の本棚

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34.『火のないところに煙は』芦沢央

 

読書初心者でも読みやすい、上質なホラー×ミステリー

 

 

▼『火のないところに煙は』はこんな作品!

・5つ+1の怪談話をまとめたミステリー小説

・ホラー×ミステリー×メタフィクション

・初回限定版はカバー裏にホラー掌編収録!

 

 

 

 

『火のないところに煙は』のあらすじ

「私」こと作者・芦沢央は、「神楽坂を舞台に怪談話を書かないか」という突然の依頼に驚く。

神楽坂はかつて「私」が恐ろしい体験をした、苦い思い出のある地だった。

その出来事のせいで、「私」は親友を介して「私」に救いを求めてきた女性、そして親友自身をも失っている。

 

迷った末、「私」は依頼を承諾し、かつての出来事の真実を求めて執筆する。

すると「私」の怪談を見た読者や同業者から、様々な怪談話が持ち込まれるようになった。

そうしてできた5つの短編作品。「私」はその5編の怪談話をまとめた単行本を出すことになったが…。

 

 

 

『火のないところに煙は』の感想・レビュー

『火のないところに煙は』の文庫化、待ってました!!

私は芦沢央の『悪いものが、来ませんように』や『いつかの人質』などが大好きなので、『火のないところに煙は』もずっと読んでみたかったんです…!

 

さらに初回限定版『火のないところに煙は』のカバー裏にはホラーな掌編も収録されており、なんとも贅沢。

掌編はいわゆる人怖系ですが、所々フォントサイズが不自然に大きい文字があり、その文字を組み合わせると……!!

本編とのつながりを感じさせる、怖くてニクい演出でした。

 

 

 

『火のないところに煙は』は「全編作中作」とも取れる構成で、物語は「私」こと作者自身の視点を介して語られます。

つまり主人公=作者なんですよね。

 

さらに『火のないところに煙は』では、作者がTwitterで実際に投稿した呟きが怪談の説得力を増すための要素として利用されていたりします。

 

▼『火のないところに煙は』本編で取り上げられた呟き

 

つまり上記ツイートは『火のないところに煙は』のための仕込みのひとつ…だと思われるのですが、このツイートが実在することによってストーリーの信ぴょう性が高まり、「これは"作中作"?それともドキュメンタリー…?」と疑いたくなってしまいます。

現実と小説との境界線を壊すこの手法、たまりません。

知れば知るほど上質なメタフィクション作品だな、と感じました。

 

 

 

『火のないところに煙は』は複数の怪談話を集めたホラー小説なのですが、丁寧な語り口と読みやすい文章(芦沢作品の魅力のひとつです!)のおかげか不思議とライトな読み心地で、気付いたら一気読みしちゃうタイプの作品です。

 

そして『火のないところに煙は』はミステリー小説でもあり、5つ(+最終話)の短編小説からなる短編集なのですが、それぞれの話にはミッシングリンクが存在します。

個々のストーリーの真相は少々推理しやすいですが、それを差し引いても面白く、全編通して惹き込まれる作品です。

そして最終話で、散らばった伏線をガサッ!と回収するさまは圧巻で、鳥肌が立ってしまいました。

ミステリー小説として、そしてホラー小説として、初心者さんにも自信をもってオススメできる作品です!

 

 

 

ちなみに、先ほど私は「『火のないところに煙は』にはライトな読み心地」と書きましたが、読み終わった直後には背後に女性の気配を感じてゾワッとしました

読みやすさというオブラートに包まれたホラー小説は、普通に怖い小説よりも厄介なのかもしれませんね…。

 

 

 

 

 

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