33.『花もて語れ』片山ユキヲ
声には「力」がある。
▼『花もて語れ』はこんな作品!
・「朗読」がテーマ
・実在の名作文学&童話がいっぱい!
・読書がもっと好きになる漫画
『花もて語れ』のあらすじ
主人公・佐倉ハナは口下手で引っ込み思案。
就職を期に上京し、社会でひとり奮闘するも、失敗ばかりで落ち込む日々…。
そんな中、偶然聞こえてきたのは、美しい朗読の声。
子供の頃「朗読」によって大きな壁を乗り越えた経験があるハナは、導かれるように「朗読」の世界に飛び込む。
宮沢賢治の「やまなし」、芥川龍之介の「トロッコ」、新美南吉の「ごん狐」…など、実在の名作文学&童話の奥深くに触れながら、ハナの成長を見守る、強く前向きな物語。
『花もて語れ』の感想・レビュー
『花もて語れ』は、様々な名作文学&童話の魅力を強く強く引き出す素晴らしい漫画です。
『花もて語れ』を読んでいると、元の文学・童話を黙って読んでいるだけでは分からない、その文学が持つ本当の意味・解釈がダイレクトに伝わってきます。
私が最初に心を持っていかれたのは、『花もて語れ』1巻に収録されている「やまなし」です。
私は「やまなし」には子供の頃、国語の授業で何度も触れましたし、印象的な作品だったのでよく覚えていました。
「クラムボンはわらったよ。」
「クラムボンはかぷかぷわらったよ。」
をはじめ、耳(目?)に残るフレーズも多かったですしね。
もちろん授業の中では、「やまなし」の細部に触れてきました。だから私は「やまなし」についてそこそこ知っているつもりだったんです。
でも全然…!全然でした…!!
『花もて語れ』を通して「やまなし」を読むと、今まで「そういうものだ」と流してほとんど疑問にも思わなかった「クラムボン」の意味も、「二疋の蟹の子供ら」の関係性もよく分かるんです。
そしてそれらが分かると、よく知っていたはずの「やまなし」が新しい、未知の文学のように感じられて…。
まさに目からウロコが落ちるような気持ちでした。
そして凄いのは、作者・片山ユキヲさんの卓越した表現力!!
『花もて語れ』では、「本筋」と「朗読内容」とで描写方法が異なります。
朗読内容を表す部分は、絵本のようなタッチで描かれているんです。
ちょうど12巻の表紙のような感じに。
※画像が小さくてスミマセン…
もちろん本編では「絵本のようなタッチ」も白黒で表現されていますが、白黒な中にも鮮やかな色彩が見えてく圧倒的な表現力があり……これが「朗読」の表現として本当に素晴らしい。
「声が持つ力」、そして「"理解したうえで読む"ことの意味」が直感的に伝わってくるというか…。
あまりにすごくて、「やまなし」で泣きましたもん。
「やまなし」でですよ!?
『花もて語れ』は、読書がもっと好きになる漫画です。
『花もて語れ』に出会っていなかったら、私はポプラポケット文庫の「国語教科書にでてくる物語」も、ちくま文庫の「宮沢賢治全集」も、夢野久作の「瓶詰の地獄」も買っていませんでした。
(特に「瓶詰の地獄」は宝です…)
『花もて語れ』は読書との新たな出会いの場にもなる作品なので、少しでも興味のある方は、まずは1巻だけでも手に取ってみてください…!!
1巻が刺さったなら、きっと最後まで楽しめます。