13.『イン・ザ・プール』奥田英朗
トンデモ精神科医は、病気を型にはめない。
▼『イン・ザ・プール』はこんな作品!
・テーマは精神科、でもコミカルな連作短編!
・不定愁訴や精神的な問題で悩んでいる人にオススメ
『イン・ザ・プール』は前回ご紹介した『空中ブランコ』の前の巻になりますが、どちらから読んでも問題ないです!
『イン・ザ・プール』のあらすじ
大森和雄は、呼吸困難、下痢、内臓全体の違和感…と、次から次に襲い掛かる不定愁訴にほとほと参っていた。
不安と苦しさから毎日病院へ通う和雄に、内科医は神経科への通院を勧める。
神経科で和雄を迎えたのは、太った中年の精神科医・伊良部だった。
伊良部のアドバイスをもとに和雄はプール通いを開始。その効果はてきめんで、不定愁訴はだんだんと改善していく。
ところが、今度は別の悩みが発生した。「プール中毒」である…。
表題作『イン・ザ・プール』をはじめ、
陰茎強直症にかかった男性の『勃ちっ放し』
集団ストーカーに追われていると思い込む女性の『コンパニオン』
など、5編のストーリーが収録された連作短編集。
『イン・ザ・プール』の感想
『イン・ザ・プール』はそもそもが読みやすい文章なのに加え、連作の短編集なので、漫画でも読んでいるみたいにサラサラ読めます。
普通に1日で読み切れちゃうくらいの読みやすさです。
伊良部の元を訪れる患者は、強迫神経症だったり統合失調症だったりしますが、精神科医・伊良部自身は安易に病名を口にしないところが逆に好感を持てます。
普通、患者からすれば、何か病名を付けてもらった方が安心できるハズなのですが、伊良部の場合はそれに当てはまらないんですよね。
「何々という病気」ではなく「その人の症状」を真っ直ぐに見ているというか。
だから伊良部の治療は型にはまらない。
めちゃくちゃで、なのに適切で、だから患者たちの症状は、やがて快方へと向かっていく…。
次回作の『空中ブランコ』では「飛べなくなった空中ブランコ乗り」や「先端恐怖症のヤクザ」など見るからに変わった患者が多いですが、『イン・ザ・プール』では一見平凡な患者が多いです。
でも、抑圧された精神が、平凡な人間を「変」にしてしまう…。
それはとても怖いことですが、『イン・ザ・プール』では数々の精神病がすごくあっけらかんと扱われています。
そこに救われる人も多いのではないでしょうか。
『イン・ザ・プール』は普通にエンタメ小説として楽しむにももってこいですが、病気…特に不定愁訴や精神的な問題に苦しんでいる人にもオススメしたい作品です。
▼次回作『空中ブランコ』の紹介記事はこちら▼