8.『羆嵐』吉村昭
ヘタなホラー小説よりも怖い…。実話を元にした獣害ドキュメンタリー
▼『羆嵐』はこんな作品!
・実際の熊害事件「三毛別羆事件」をモデルにしたドキュメンタリー小説
・自然の恐ろしさと人間の無力さがよく分かる作品
・グロ、残酷描写が苦手な人は要注意
大正4年に北海道の村で実際に起こった、人食いヒグマによる殺戮の全貌を描いています。
真に迫る内容で、恐怖や人の死に様がとてもリアルなので、残酷描写が苦手な人は要注意です。
『羆嵐』が気になる…でも怖くて読めるか分からない…という方は、まずはWikipediaの『三毛別羆事件』の記事を読んでいただき、大丈夫そうだったら手にとってみることをオススメします。
ちなみに『三毛別羆事件』の記事は「Wikipedia三大文学」のひとつといわれるほど完成度が高く、一読の価値ありです。
『羆嵐』のあらすじ
大正4年、北海道苫前村にある島川家の庭先で、喉元を深くえぐられた子供の遺体が発見された。
家の中にいるはずの母親の姿はなく、代わりにおびただしい量の血液が残されていた。
母親の遺体は翌日、一部分のみ発見される。
「クマだ」
村民たちはこの惨劇の原因がヒグマであることを確信した。
そしてヒグマは、亡くなった2名の通夜の席にも現れ、さらに殺戮を重ねる。
体長2.7m、体重383kgのクマを相手に、人々は戦うどころか、ろくに抗うことも叶わない…。
警察も、めいめい手に持った武器もあてにならない中、区長は凄腕の猟師・山岡銀四郎に応援を頼むことを決意する。
銀四郎は大酒飲みの荒くれ物で、村全体から嫌煙される厄介者であったが…。
『羆嵐』の感想・レビュー
『羆嵐』は、実際に起こったなどと信じたくないような内容です。
ヒグマによる殺戮は天災に近く、人々は成すすべなく犠牲になっていきます。
ヒグマが最初に食べたのが女性だから、以後女性に執着するようになる、という点も一層恐ろしく、筋道が通っているところが逆に不気味です。
警察が登場し、人々が銃を手に取った時なんかはこれで勝つると思ったものですが、羆害の恐怖の前ではまったく役に立たず…。
読みながら「もうどうしようもないのか…」と途方に暮れてしまいました。
そんな絶望的な状況の打開策として投入されるのが、クマ撃ちの名人・山岡銀四郎です。
銀四郎は『羆嵐』の主人公と言ってもいい男ですが、決して好感が持てる男ではありません。
しかし『羆嵐』での銀四郎を見ていると、素人の付け焼き刃では限界がある、やはり頼るべきはその道のプロ、ということを実感できます。
『羆嵐』は後味を含めてどこまでも現実に即しており、だからこそ怖く、だからこそ切なさが胸に残ります…。